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第29話

(やはりこの携帯はお父さんの買ったものと同じだ!)

家に帰った和人は携帯電話を机の上に置いた。

よく見ると「FOMA」という文字が液晶画面の上の方にある。

6カ月も前からFOMAが発売されているはずはない。

しかも表面の消耗の度合いは、購入して1年以上は使っていると思われる。

(すると、この携帯は…)

すぐに和人は一つの答えを導き出し、全身に鳥肌が立った。

(もしかしたら”未来からやってきた”ということになるのでは!)


和人は父の携帯の充電器を居間から持ってきて、充電を始めた。

6か月前と同じように時間を止めることができるかどうか、一刻も早く試してみたかった。

だが、充電にはしばらく時間がかかる。

充電が完了するまでの間、クロベエの散歩に付き合うことにした。


以前は千波と出くわすことを期待して散歩をしていた和人であったが、千波と英が付き合うようになってからは、むしろ出会わないようにと思っていた。

というのも、和人の千波への思いが変わっていないため、英に対してなんとなく後ろめたい気持ちがするからだった。

千波の姿を見れば見るほど、胸がときめいてしまう。

だから今はできるだけ会わないようにしなければならないと思っていた。

最近の散歩コースは、千波の家と反対方向を選んでいた。

幸い、千波は部活をしていて夜遅いため、太郎の散歩は小学校6年生の弟に任せているらしい。

犬の散歩で出くわすことはほとんど考えられなかった。


だが、その日はいつもと違っていた。

バスケ部の練習が早く終わったのだろうか。

和人たちが10分ほど歩いたところで、道の正面から千波が太郎を連れて歩いてくるのが見えた。

和人は自分の心臓の鼓動が急に速くなって来るのを感じていた。

(何でこんな道を歩いているんだよ。)

和人の気持ちとは裏腹に、千波と太郎はまっすぐこちらへ歩いてくる。

さらに太郎がいつものようにいち早くこちらに気づいて吠えだした。

脇道もないし、いまさら引き返すわけにもいかない。

双方の距離は瞬く間に縮まっていった。


「まったくこの子ったら、いつまでたっても進歩がなくて…」

ワンワンとけたたましく吠えさかんに動き回る太郎のリードをしっかりと握りながら、千波が話しかけてきた。

「千波ちゃんを守ろうと必死なのかもしれないよ。」

いつしか和人は千波を”千波ちゃん”と呼ぶようになっていた。

顔がそれほど赤くならないのは、千波と話をすることが幾度となくあったからだ。

「英は?今日は一緒じゃなかったの?」

「いつもいつも一緒にいるわけじゃないですよ。園山先輩は最近受験勉強に忙しいし・・・。それじゃ、失礼します。」

ぺこりと頭を下げ後ろ向きで太郎を引っ張りながら、千波が離れていった。

和人は前を向き、ふぅーと息を吐いた。

(相変わらずかわいいな。それにそれほどドキドキせずに話ができた。俺にしては上出来だ。それにしても英は今大変だろうな。時間が足りなくて焦ってるんじゃないだろうか。)

顔をしかめながら猛勉強している英の姿が目に浮かんだ。

(そうだ、時間を止める携帯電話のことを英に話してみたらどうだろう。)

この和人の考えはこれまで何度もあった。

だが、その度に打ち消してきた。

誰か一人、たった一人に話しただけで、噂は世間に広まってしまう。

例え「誰にも言うなよ」と念を押しても、今度はその人が別の人に「誰にも言うなよ」と念を押して話してしまう。

噂とはそういうものだと和人は思っていた。

だから、今まで誰にも携帯電話のことを話さなかった。


(でも英は信頼できる親友だ。その親友が追い詰められている。それなのにだまって見過ごしてよいのだろうか。困っているときに助けないなんて親友として失格ではないのか。)

そこまで考え、和人は決心した。

(とにかく明日英に会ってみよう。そして本当に追い詰められているとしたら、携帯電話のことを教えてやろう。英は歓喜するに違いない。)


「走るぞ、クロベエ。」

和人は散歩を早く切り上げたくて、走り出した。


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