表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/99

第18話

「みんないいぞ、その調子だ!」

楠田が興奮しながら選手を迎えた。

「園山、見事なカウンター攻撃だったな。まさに『してやったり』という感じだな。」

「でも監督、相手は攻め方を変えてきます。たぶんカウンターはもう使えません。」

言いながら英はグラウンドに寝そべった。

「なあに、相手は2点を取り返しに遮二無二攻めてくるさ。カウンターはさらに有効だ。」

楠田はそう言ったきり、戦術について何も語らなかった。


「園山先輩は、葉山中がどういう攻めをしてくると思いますか。」

松永が小声で聞いてきた。

「さあな、攻め方はわからねえが、俺のマークはきつくなるだろうな。」

「大丈夫ですか?かなり疲れているようですけど。」

「まあ、なんとか持つさ。後半、松永には俺の分まで動いてもらうことになるだろうけどな。」

「俺は大丈夫です。どんどん使ってください。」

「頼りにしてるぜ、後輩。」

英はそう言うと、目を閉じ、時間いっぱいまで休んだ。


ピーッ。後半開始の笛が鳴った。

葉山中はバックラインを前半よりもかなり下げてきた。

明らかにカウンターを警戒した守りだ。

さらに案の定、英には葉山中ミッドフィルダーがガチガチのマンマーク。

実力に勝る葉山中は、緑丘中の攻撃の糸口を切り、確実に勝つ作戦を選んできた。


(ちっ、やはりその手で来たか。)

英は思い切った作戦に出ることにした。

「松永、トップ下に入ってくれ。俺はボランチだ。」

「はい。」

(なるほど守りを強化して、勝負どころで相手のマークを振り切って反撃に転じるということか。ミニゲームの時の戦法だな。)

松永は英の考えをすぐに理解した。

英がディフェンスに回ったことで、葉山中の攻撃がいくぶん鈍った。

しかし緑丘中はついに相手に得点を許してしまった。

桑田の守備力が弱いことを知り、そこをついてきたのだ。

サイドライン際をドリブルしてきた相手のフォワードが、桑田を振り切り鋭いセンタリングを上げた。

ボールは長身のセンターフォワードにドンピシャだった。

キーパーは一歩も動けず、ゴール右隅に決められた。


(ちくしょう、ついに1点入れられたか。それも後半が始まって10分も経っていないというのに…。)

英は中腰になり荒い息をついていた。

(でもここで守りに入ったら、一気にたたみかけられてしまう。ここは勝負だ!)

だが、キックオフのボールを受けた英は、味方にパスをすると、後方に下がってしまった。

「園山、なに下がっているんだ。ここは攻める時だろ。」

楠田が怒鳴る。

その時、葉山中が味方のボールをパスカットした。

そしてまた桑田がいる方のサイドから攻めてきた。

ディフェンスの選手がライン際を駆け上がり、パスを受ける。

桑田が振り切られた。

だが、桑田が抜かれた瞬間、桑田の後ろから英が現れ、ボールを奪った。


「松永!」

英はそう叫んだ後、敵を一人かわし猛然と走りだした。

相手の選手が3人くらい詰めてきたが、近づいてきた松永にパスを出した。

松永はダイレクトで英に壁パス。

さらにパスを受けた英はゴールへ向かって突き進んだ。

松永はいつでもパスを受けられるように英の右側を走っていた。

清水が前線で相手ディフェンスをかき回す。

ボールはハーフラインを5メートル程超えた。

(まだ、清水にはパスが通らない。もう少しゴールに近づかないと…。)

「逆サイドにパスだ!」

松永にパスしながら英が叫んだ。

チーム一の俊足、ウイングの持田がライン際を走っていた。

松永がパスをだす。

「松永フォローに行ってくれ。清水ニアサイドだ。」

そう言いながら英は持田の逆サイドへと走った。

清水がニアサイドに走りこむ。

持田からパスを受けた松永がセンタリングを上げた。

そのボールは清水の頭の上を越えて、フリーの英へ。

胸でワントラップしてシュート。

ボールはサイドネットに突き刺さった。


この1点が葉山中の反撃ムードを一変した。

葉山中は、焦りからミスを連発し、緑丘中に攻め込まれる場面が多くなった。

そして葉山中が意地の1点を取り返したところでゲームが終了した。

「やられたよ。」

葉山中の長身フォワードが英に話しかけてきた。

「お前、園山っていうのか。お前みたいな選手がいるなんて知らなかったぞ。なんで県代表に選ばれなかったんだ。」

「さあ、そんなこと知らねえよ。」

「なあ園山、俺北高に行くんだけど、お前も行くんだろ?」

北高はサッカーの名門で、6年連続全国大会に出場している。

「いや、俺は西城に行く。」

「西城?…そうか、お前頭いいんだな。」

「頭はよくないけど、西城に行かなきゃならないんだ。西城に行って北高を倒す。」

「わかった、じゃあ敵だな。高校では負けないぞ。」

「ああ、よろしくな。太刀中(たちなか)(しゅん)君。」

英は太刀中に背を向けて、味方のベンチに歩いて行った。

(俺の名前、何で知ってるんだ?)

太刀中は不思議そうに英の後ろ姿を見ていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ