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第10話

「英、ちゃんとコーラおごれよ。」

「わかってるよ、かつお節に二言はない。」

「えっ?お前かつお節なの?ていうかそれを言うなら武士だろ、ただの武士。」

サッカー部の部室で、練習着から制服に着替え中の和人と英の会話だ。

「でも英、今日のゲームすごかったな。」

「ああすごかったよ、お前のロングシュート。」

「そうじゃないよ、とぼけるな。体のキレ、フェイント、視野の広さ、たった2日間でどうすればあんなに進化するんだ。楠田なんて、ノートを取り出してポジション組みなおしてたぞ。たぶん松永をサイドに移動して英がトップ下に入るんじゃないか。」

「ポジションはどこでもいいんだけど、う~ん、一言で言うと”目覚めた”ってとこかな。むずかしい言葉でいえば、…なんだっけ。」

覚醒(かくせい)とか?」

「そう、それそれ覚醒。和人、お前中学生のくせによくそんな難しい言葉知ってるな。」

「あほらしい。お前だって知ってるじゃんか。」

「ん、…ああ俺も中学生か。なるほどなるほど。」

「何わけわかんねぇこといって…。」

「いてててて!あ、足、足つった!」

英がズボンに片足入れたところで大声を出して座り込んだ。

「重症だな、タクシー呼んでやろうか、橘家経由になるけど。」

英の足を延ばしてやりながら和人が言った。

「普通はけが人を先に送リ届けてから帰るもんじゃないのか。いいよ、足つったぐらいでタクシーなんて使ったら親に怒られちまう。」

和人に肩を貸してもらい英が立ち上がった。

「行こうか。」

二人はゆっくりと部室を出た。


「何にやけているんだよ。気持ち悪いぞ和人。」

「県西部地区対抗戦が楽しみだって思ってたんだ。」

「あぁ、県西部か。異様に盛り上がってるな。うちの学校、今年はけっこういいとこ行くかもしれないしな。」

「だろう?バスケと卓球が優勝候補らしいから、これに俺達サッカー部がベスト4にでも入れば20年ぶりの総合優勝も夢じゃないぞ。」

「俺たちがベスト4?県大会で2回戦敗退の俺たちがか?むちゃ言うなよ。」

「いや、あり得ないことじゃないぞ。うちは割と個人の力はあると思うんだ。今まではそれがかみ合わなかっただけだ。英が司令塔になって今日みたいな働きをすれば、絶対に強くなる。」

「おいおい、楠田の熱血がついに感染したな。和人ちょっと離れてくれ、俺にまでうつる。」

「ひどいなあ、こっちは真剣なのに。」

少し考えた後、英が言った。

「でも和人、そのもくろみも俺の体力次第だな。今日みたいに足がつったら俺はアウトだ。」

「今日足がつったのは、必要以上に走り回ったからだよ。1試合ならもつさ。」

「いや、走り回ったせいで足がつったんじゃない。和人を抜いた時みたいにさ、頭で考える動きに無理やり足を動かしたから、足に負担がかかりすぎたってこと。」

「どういうこと?」

「つまり、…体力がないってことだ。」

「わかんねえな。じゃ負担かけないようにセーブしたらいいじゃないか。」

「セーブしてたら今日和人は抜けなかったさ。」

和人は理解に苦しんだ。

自分の頭が足に指令を出すのは、足の力の限界の一歩手前までだろう。

すると英は今日のゲームで、足の限界を無視して足に指令を出したってことになる。

そんなことができるんだろうか、自分の足なのに。


「和人、お前がやさしいのはわかってるけど、家まで送ってくれなくても大丈夫だ。」

気がつくと前川サイクリング店の角を左へ曲がっていた。

和人の家はそこを曲がらずに、まっすぐ横断歩道を歩いたずっと先にある。

「いけね、俺の家はあっちか。」

「実はお前の方が疲れてるんじゃないか?体力つけろよ、じゃあな。」

英が笑って手をあげた。

「じゃあ。」

和人も手をあげて笑った。

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