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4.引きこもり娘との婚約‐4



 どんな得体の知れない娘が来るのかと多少の焦燥感を抱いていたが、実際に彼の目の前に現れたのは気品漂うごくまともな娘だった。


 年若い令嬢には似つかわしくない濃紺の地味なドレスに、化粧っ気のない顔だが、大して気になる事ではない。

 姉のアネットほどの華やかさはないものの、凛とした素朴な美しさが彼女にはあった。


 しかしながら彼女の方は、この貴顕紳士を前にしても堂々たる無愛想な態度であった。


「お会いできて光栄です、ルイーズ嬢」

 彼がにこやかにそう言って彼女の手の甲にキスすると、ルイーズは自ら素早く手を引いて虚無的な表情を彼に向けたのだ。


 すかさず、隣に立つ母親のブランシュがそんな彼女を窘めるように、思い切り足を踏み付ける。


「……こ、こちらこそ、お会いできて光栄ですわ、ルヴィエ公爵」

「……」

 痛みを堪えながら仕方なく取り繕ったような笑顔は、不自然なほど引き攣っていた。






          *






「そんなに僕がお嫌いですか」

 手入れの行き届いた見事な庭園を2人で歩きながら、アランは彼女を見下ろした。

 

 ごく自然に紡がれたそんな科白にルイーズは少し戸惑う。

「私が、あなたを嫌っていると?」

「だってそうでしょう。さっきから意地でも口をきかないような態度だ」

「あなたのように、笑顔で愛想を振り撒けないだけです」


 ふわりと風に煽られたブラウンの長い巻き毛を押さえながら、彼女は何食わぬ顔をする。


「どちらにしても、この結婚には絶望してるような感じですね」

「あら、分かるんですか?」

 どこまで失礼な娘なんだと、アランは呆れるように苦笑した。

 皮肉の応酬は続く。


「でもどうせ結婚からは逃れられないんです」

「それなら、どこかの片田舎に住む地味な奴との方が良かったのかもしれませんね。ひっそりと暮らせそうで」

「まあ、さっきから鋭いですね。私の気持ちを理解していただけるなんて」

「そうやって無神経な女を装うのは性質が悪いですよ? 嫌味ならはっきりと仰れば良い」

「まさか嫌味など。私はただ、逆らえない運命を素直に嘆いているだけですわ」


 のどかな陽気の下、相反する2人の間にはすでに暗雲が漂っていた。


 こんな女性は初めてだと、彼は思う。

 口を開けば機知に富んだ措辞が出てくるが、そのどれもが端から自分を受け入れないような喧嘩腰の言葉だ。

 もちろん癪に触ったが、それでも嫌悪感は湧いてこなかった。

 異性からの媚態に慣れているせいなのか、それは好奇心に近い感情だった。



「そろそろ、お部屋に戻りませんか?」

 この時、これで彼との婚約はなくなったとルイーズは確信していた。


 しかし、数日後に告げられたルヴィエ公爵の返事は、この婚約を受け入れるという旨だった―――。






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