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24.些細なすれ違い



「はあー、今日も良い天気ですわね」

「……」

「……」

 この場を和ませようとするジゼルの気遣いは、虚しくも散って行く……。


 先ほど挨拶を済ませたアランとジゼル。

 ワインの残り香を感じながら彼女は出されたお茶を飲んでいたのだが、如何せんこの部屋の息苦しさのせいでお茶を楽しむどころか、味さえもよく分からない。

 2人の間に「何か」があったのだということは一目瞭然なのだが、問題はその詳細をここで訊くか否か……。


「あの、何だか2人ともお元気がないようですね」

 ジゼルは遠回しに尋ねた。

「べつにそんなことはないわ。ただ、どこかの誰かが急に怒るんだもの……」

 後半の方は耳打ちするように囁いたルイーズだったが、それはしっかりとアランの耳に届いていた。


「僕が悪いんだってはっきり言えば良いだろう。どうせ本当の事なのだし」

「どうしてそう投げやりに言うのですか? 私はただ、あなたの怒った理由を訊きたいだけです」

「……」

 “理由”。それは嫉妬や不安といった本当に単純なもの。でもそれを口にすれば、自分がまるで駄々をこねる子供のように映ってしまいそうで、アランは言えなかった。


「……冷静さを失っていたようで悪かった。今日の所はこれで失礼する」

「アラン様っ、まだお話が」

 逃げるようにしてこの場を立ち去ろうとする彼に、ルイーズは縋るような視線を送るが、アランはそのまま部屋を出て行った。


 ルイーズの震えた吐息が、ジゼルには確かに聞こえた。


「……一体、何があったのですか?」

 彼女の肩をそっと抱きながら、躊躇いがちにジゼルは訊いた。

 ルイーズはポツリポツリと、事の次第を話し始めた。







 屋敷に戻り書斎に入ると、アランは椅子に向かって乱暴に身を投げた。自己嫌悪そのままに、ぎゅっと瞼を閉じる。


「もうすぐアルベール子爵がお見えになりますが、資料を持って来ましょうか」

 上着を受け取ったレナルドはそんな主人の心境を知ってか知らずか、あくまで事務的な態度を取る。

「……渡された資料は読み込んである」

「そうですか。失礼しました」

 

 これから会談が開かれるというのに、アランの心が別の所に向いている事はもちろん気付いていたが、それにはあえて触れないままレナルドは書斎を後にする。

 部屋を出るときに耳にした、

「はあ……また馬鹿なことをした」

 という彼のボヤキも聞かなかったフリをして。






          *






「安心した。あんたみたいな女じゃなくて」

 ルイーズの印象を訊かれ、フェルナンは冗談交じりにそう答えた。

「それは私を貶しているの?」

「さあね」

 彼はシャツのボタンを外しながら素知らぬ顔をする。

 

 先ほどルイーズとの初対面を果たし、彼らはルイーズに肖像画を描かせる約束を半ば強引に取り付けた。しかしそれでもアネットは十分に満足してはいなかった。彼女の計画は、まだ初歩的な段階しか迎えていないのだから。


 野心に燃える彼女の眼差しに、フェルナンは前から気になっていたことを訊いた。


「どうしてルイーズのことをそんなに目の敵にする?」

 それは妹のルイーズを庇う訳ではなく、ただ純粋に疑問に思ったことだった。

 アネットの答えは簡潔だった。


「いつでも、どんな時でも、私の方がまさっていたいだけよ。あらゆる意味で。

 だからそのために―――」


 彼女はおもむろに立ち上がると、机の引き出しから1枚の紙切れを取り出した。


「その額に見合った、あなたの働きが必要なの」


 手渡された小切手を見つめながら、フェルナンは感じていた。

 この女の執念の際限のないことを。





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