21.不穏な取引き‐2
かなり短めです。スミマセン……汗
真新しいシャツに短く整えられた髪の毛、髭のない清潔な顔つき。
鏡の前で、フェルナンは生まれ変わった自分と対面した。
「元が良いだけあって上出来ね」
アネットは満足気に口元を緩める。
「この近くにある宿屋の一室を取ったわ。しばらくはそこに住んで頂戴」
「あんたの妹に怪しまれないか?」
「大丈夫よ。そんなに鋭い頭は持ってないから」
彼の襟元を直そうとするアネットを間近で見下ろしながら、フェルナンはその妹とやらがこの女とは似ていないことを祈った。
「さあ、しっかりと働いて頂戴ね」
「……まったく、おっかないお嬢さんだ」
*
「おや、最近付き合いが悪いと思ったら、機嫌が良さそうだ」
とある友人の屋敷に久しぶりに顔を出すと、その中の1人が冷やかすようにそう言った。
「婚約者と色々あってね。忙しかったんだ」
サロンでは見知った顔の男女数人が呑気に寛いでいた所で、アランもその和に加わった。
「色々って、あの食事会以来か?」
「まあね。何とか解決したんだが、ごたごたの原因は何となく察しがついてるんだ。
彼女のことを良く思わない連中の、心ない行動の所為だということは」
そう言ってアランは、女性陣の方を刃のような鋭い眼で牽制した。
彼女たちは優雅な物腰から一変、一斉に気まずそうな顔で扇なぞをパタパタと振り始める。どうやら知らんぷりを決め込んだ様で、彼女たちの薄汚い心にアランは呆れるばかりだった。
「でも君の婚約者も随分と内気そうな方だったじゃないか。心配ではないのか?」
「彼女も色々と努力しているようだし、何より僕は彼女のことを信じているから問題ないさ。この前だって、ウチの家系図を貸してくれって言われて、親戚の名前を必死に覚えようとしていたんだ」
アランは鼻高々に自分の婚約者を自慢する。それはもう、愛おしくて仕様がないという風に。
「だから僕もそんな彼女をずっと支えていきたいと思ってるし、僕には生涯彼女だけさ。
いや、何だかすまないね。僕だけがこんなに幸せで……ハハハハッ」
「……」
友人たちは、この脳みそが花畑状態の男をいっそ殴ってしまいたいと思ったが、心の中で悪態をつく事で我慢した。
さて、この能天気な笑顔は一体どこまで続くのやら―――。