14.あなたに捧げる花‐2
―――体が熱い……。
吐き出す息は荒く、足場の悪い地面を踏み締める足も重かった。
ルイーズという存在、ルイーズを愛おしく想う気持ちだけが、鉛のような彼の身体を支えていた。
寝室に飾られていたあのスイセンの花を眼にした途端、アランはすぐさま着替えを始めた。レナルドが必死に引き止めるのも聞かずに。
「また倒れても知りませんよ!」
レナルドの興奮した声を背中に受けながら彼は迷いなく屋敷を後にした。
そして馬を走らせてやってきたのは丘の方にあるというスイセンの花畑だった。
*
なんて身勝手な男だろうと思っていた。
自分のことなど、いっそ嫌ってくれればと願ったことも。
しかしアランと会わなくなって数日、ルイーズの心ははっきりと揺らいでいた。青か赤なのかも認識できないような、不透明な感覚……。
「このまま婚約がなくなってしまうことは?」
紅茶のカップを手にジゼルは訊いた。
ルイーズは焼き菓子を小さく齧り、ため息をつく。
「……分からないわ」
「とりあえず今は会わないと?」
「ええ……」
噂を聞きつけたジゼルが、ルイーズの様子を見に彼女の部屋を訪れていた。どことなく翳りのある表情に、ジゼルは彼女の苦悩を察した。
「先日あるお茶会に出席したんですけど、独身の令嬢たちが色めき立ってましたわ。アラン様に取り入るチャンスだとかなんとか下品なことを言って」
「……」
ジゼルの言葉をどう受け止めれば良いのか戸惑いながら、ルイーズは曖昧に微笑んだ。
明るく社交的なアラン。屈託のない笑顔を向ければ女性たちの瞳はみな蕩けてしまう。
アランの女性関係や彼の取り巻きを気にしたこともなかったルイーズだったが、ここに来て心穏やかでなくなっているのも事実だった。
アランのとなりに自分ではない女性が立っているのを想像すると、認めたくもない“嫌な感情”に苛まれそうになるのだった……。
そうこうしているうちに、上の階からにわかに騒がしい物音が聞こえてきた。叫ぶような声と、焦ったように走る足音。
「何かしら」
「さあ……」
天井を見上げながら、2人は怪訝に思う。
ルイーズは部屋のドアを開け、廊下で待機していた侍女に尋ねた。
「少し騒がしいようだけど、何かあったの?」
「はい、先ほどルヴィエ公爵が門の前で倒れられたそうです」
「……え」
ルイーズは息を呑んだ。