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"肝"試し  作者: えむ
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肆日目 九月四日(月)

「ツバサ、遅いね」

 私とスグルは私の家の前の小さい広場の日陰で座っていた。日陰の外では、夏の太陽がジリジリと照りつけていた。

 車も人も通らない。蝉の声だけが広場に響いていた。

 ベンチが一つあるだけの何もない広場だったが、私たち三人のお決まりの待ち合わせ場所だ。小さい頃からどこに行くにもここに集合してから行ったものだった。

「まだ寝てるんじゃないのか?」

 今日は平日だ。学校の授業もある。なのに、ツバサはいつまでたっても広場には現れなかった。

「このまま待っても遅刻しちゃうし……ツバサの家、行ってみようか」

 私は、携帯に連絡が入ってないことを確認してから、そう言って立ち上がった。

「そうだな」

 私たちは、広場を出た。



 私はツバサの家のチャイムを鳴らした。

 ピンポーンという音が家の中で空しく響き渡る。

 家の中からは物音一つ聞こえてこない。

「あれ、誰もいないのかな?」

 私は家の窓に目をやったが、カーテンが閉まっているので中は窺えない。

 なんとなく不安になってくる。

「おいツバサ! いないのか!」

 スグルが呼びかけるが、返事はない。

「しょうがない、先行くか。このままじゃ俺達も遅刻しちまうよ」

 彼は諦めたようにくるりと後ろを向いて歩き出そうとする。

「でも……」

「どうせ、いたとしても体調悪いんだろ。放っておいてやろうぜ」

 彼なりの気遣いなのだろう。

 私はその言葉に従うことにした。



「起立、礼!」

 学級委員が号令をかけ、今日もまた帰りのショートホームルームが終わった。

「気をつけて帰れよ! 最近物騒だからな!」

 担任の先生がそんなことを言いながら教室を出て行く。

 私はスグルの席に向かった。

「結局、ツバサ来なかったね」

「ああ、そうだな」

 そう言いながら、彼はどこか遠くを見つめているようだ。

「帰りにもう一回ツバサの家、寄ってみようよ」

 私はそう言ってスグルの肩を掴み、軽く揺すぶった。

 突然、彼がバッと立ち上がる。

「そうだな、行くか」

 そう言ってさっさと歩いて行ってしまった。

「あ、待ってよ」

 私は急いで後を追いかけた。



 私がツバサの家に着いてはじめに目にしたのは、赤く点滅するランプだった。

 家の周りには黄色いテープが張られ、中に入れなくなっていた。

 お巡りさんが何人か立っている。

 一台のパトカーがランプを点滅させながら走り去っていった。

 私は近くにいたお巡りさんに駆け寄り、震える声で尋ねた。

「な……何があったんですか?」

 その三十代くらいの小太りのお巡りさんはかしこまったふうに聞いてくる。

「あ、ご近所の方ですか?」

「そうです」

 気が動転して返事を忘れていた私の代わりに、隣にいたスグルが答える。

 それを聞くと、お巡りさんは小さな声でそっと言った。

「ここに暮らしていた家族が、家の中で変死体で発見されたんです。」

 私は顔から血の気が引いていくのを感じた。

「ほ……本当ですか?」

「ええ、それで……最近何か異変を感じたり、何か知っていることがあれば教えてもらえると助かるんですが」

 スグルがまたしても何も言えなくなっていた私の代わりに答えてくれる。

「今日の朝八時一五分くらいに同級生のツバサを迎えに来たんですがチャイムを鳴らしても返事がなくて――」

「そうですか……お友達の方でしたか」

 お巡りさんが残念そうな顔をする。

 そして、こう口にした。

「実は、そのツバサさんの遺体だけ見つかっていなくて……どこにいるのか知っていたら教えてもらおうと思っていたのですが……」

「わからないです、すみません」

 スグルが目線を下げ、答える。

「そうですか。ご協力、ありがとうございました」

 お巡りさんはそう言って頭を下げた。

「ほら、アカネ。帰るぞ」

 立ちつくしていた私は、スグルに無理矢理引っ張って行かれ、現場を後にした。

 その時、近所のおばさんたちの声が聞こえてくる。

 私は、ショックで頭が回らなくなっていたが、近くから聞こえてきたこの会話だけはなぜか覚えていた。

「なんかご主人だけ食い荒らされた上に首だけ見つかっていないんだってねぇ。よっぽど恨みでもあったのかしら」

「あら、怖いわー。お化けになって出てきそう」



「ツバサ、どこ行っちゃったんだろうね」

 ようやく少し落ち着いた私は、口を開いた。

 スグルは、ずっと隣で寄り添ってくれていた。

 私たちは赤く染まった空の下、いつもの広場にある小さなベンチに座り込んでいた。

「さあな」

 彼は空を見上げる。

「だけど、まだ死んだって決まったわけじゃない。そんなに気を落とすな」

 彼の大きな手が私の頭を優しく撫でてくれる。

 そうされているだけで、とても安心した。

「うん、ありがとう」

 私の目から、涙が溢れ出した。




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