ヌヴェル26 祖母のお弁当
休日の余韻が抜けきらないままお昼を迎えた優子は、いつものように祖母の玉枝が作ってくれたお弁当を食べようと包みを開いた。
「優ちゃん、明日のお昼は何食べたい?」って聞いていた祖母、鼻歌まじりにお弁当を作っていた祖母、その姿を思い浮かべて、いつものようにふふっと笑みがこぼれた。
そのときメールが届いた。余韻の主、拓哉からだ。お昼を一緒に食べませんかという内容。
優子は、しばしためらったが、返信メールを打つとお弁当を包み直し、拓哉との待ち合わせ場所へ向かった。
退社時刻。優子は給湯室でお弁当の中身をごみ袋に入れ、生ごみ入れに捨てた。
帰宅した優子は、玉枝と一緒に夕食を摂った。
次の日から、優子は拓哉と一緒にお昼を食べた。社員食堂であったりオフィス街のレストランであったり。
お弁当は、ごみとして捨てて帰った。
健気にお弁当を作ってくれる玉枝に申し訳ないと思いながら断ることができなかった。
そんな日が暫く続く中、優子は拓哉との休日を楽しみたいがため、いつもなら土曜日出勤で処理していた仕事を日々の残業で処理するようになった。
当然帰りは遅くなり、玉枝と一緒に夕食を摂る機会も少なくなっていった。
お弁当もごみとして捨てることがつらくなり、優子は玉枝に「もうお弁当は作らなくていいよ」と告げた。
そのときの玉枝の背中が少し寂しそうに見えた。
優子の毎日は、玉枝と一緒の穏やかな毎日から拓哉中心のときめく毎日に変わっていった。
そして数ヶ月が過ぎた、ある日曜日。拓哉とのデートから帰った優子は、台所で倒れている玉枝を見つけた。
心筋梗塞だった。夕食の支度をしているときに突然襲ったのだろう。搬送先の病院で死亡が確認された。
それから数日。優子は会社を休んだ。優子を気遣い寄り添ってくれる拓哉の存在は有り難かったが、ぽっかり空いた心の穴はなかなか埋まらない。
親代わりとなり、優子の成長を見守ってくれた祖母。
鼻歌まじりに優子のお弁当を作ってくれた祖母。
夕食のとき今日あったことを楽しそうにしゃべっていた祖母。
「おばあちゃん、ごめんね」
失って始めて気づく大切なものが、やがて心の穴を埋めていってくれるのだろうか。
台所に立つと、そこに玉枝がいるような感覚になる。
食器棚、ガラス戸の中にお弁当箱が見える。
洗ったお弁当箱を布巾で拭きながら「優ちゃん、明日のお昼は何食べたい?」って聞いていた玉枝が蘇り、やがて朧気になっていく。
とめどなく溢れる涙のせいで。




