シーン8:ヒロインの任務
ヒロインは、
銃を向けていた。
両手で、
しっかりと。
訓練通りの姿勢。
照準は、
ぶれていない。
その先にいるのは、
世界を破壊している存在。
対象A-17。
排除対象。
人類の敵。
――鹿間斎。
主人公は、
動かなかった。
逃げない。
隠れない。
防ごうともしない。
ただ、
そこに立っている。
そして、
言った。
「それでいい」
静かな声だった。
責める響きは、
なかった。
「それが正しい」
肯定だった。
命令を。
任務を。
彼女の存在理由を。
主人公は、
ゆっくりと、
目を閉じた。
抵抗は、
しない。
受け入れていた。
自分の終わりを。
ヒロインの指が、
引き金にかかる。
力を込める。
撃てる。
撃てるはずだった。
この距離。
この精度。
外すことはない。
終わらせられる。
全てを。
任務を、
完了できる。
指に、
力を込める。
――込める。
――込める。
だが。
それ以上、
動かない。
止まる。
まるで、
見えない何かに、
掴まれているように。
呼吸が、
乱れる。
なぜ。
撃て。
撃て。
撃て。
頭の中で、
命令が繰り返される。
だが、
体が、
従わない。
主人公は、
目を閉じたまま、
微動だにしない。
完全に、
無防備だった。
信じているわけではない。
期待しているわけでもない。
ただ、
終わりを、
受け入れているだけだった。
それが、
分かってしまう。
ヒロインの視界が、
揺れる。
輪郭が、
滲む。
なぜ、
撃てない。
これは、
任務だ。
最初から、
そのために、
自分は作られた。
監視するために。
近づくために。
そして、
殺すために。
それなのに。
指が、
動かない。
震えるだけで、
引けない。
主人公の胸は、
すぐそこにあるのに。
心臓を、
止められるのに。
ヒロインの唇が、
わずかに開く。
声にならない、
空気だけが漏れる。
そして、
初めて、
理解する。
自分は――
撃ちたくない。
その事実を、
理解してしまう。
銃口は、
まだ、
向けられている。
だが、
引き金だけが、
永遠に、
引かれなかった。




