シーン4:政府の絶望
地下深く。
窓のない部屋。
無機質な光に満たされた対策本部は、静まり返っていた。
誰も、声を出さなかった。
出せなかった。
正面の巨大モニターに映っているのは、都市だった。
正確には、
都市だったもの。
「……」
久世は、立ったまま画面を見つめていた。
ビル群の一角が、
何の前触れもなく、
消えた。
爆発ではない。
崩壊でもない。
ただ、
映像のその部分だけが、
切り取られたように、
無くなった。
そこには、
黒い空白だけが残っている。
「現在座標、消失確認……」
オペレーターの声が震えていた。
「消失範囲、拡大しています……止まりません……」
別のモニター。
別の角度。
別の地区。
同じ現象。
同じ消失。
同じ、理解不能。
「対象は?」
久世が訊いた。
自分でも驚くほど、
声は冷静だった。
「移動中です……徒歩で……速度、時速約四キロ……」
「徒歩……」
誰かが呟いた。
その言葉の滑稽さに、
誰も笑わなかった。
歩いているだけの人間が、
都市を消している。
現実が、
意味を失っていた。
「兵器発射準備、完了しています」
オペレーターが言った。
「対存在消滅兵装、第七号。命中予測、〇・八秒後」
久世は、
数秒、黙った。
そして、
頷いた。
「発射」
短い言葉だった。
モニターの中で、
光が走った。
一直線に、
歩く人影へ向かって。
それは、
人類が積み上げてきた、
最大級の「力」だった。
世界を守るための、
最後の牙だった。
光は、
命中した。
――その瞬間。
光が、
消えた。
爆発は、
起きなかった。
衝撃も、
閃光も、
何も起きなかった。
ただ、
兵器が、
消えた。
存在ごと、
消えた。
「…………」
誰も、
何も言わなかった。
言葉が、
意味を持たなかった。
モニターの中で、
人影は、
歩いていた。
変わらない速度で。
変わらない姿で。
何もなかったかのように。
久世は、
理解した。
これは、
戦いではない。
勝負ではない。
対抗ですらない。
――止められない。
その事実だけが、
はっきりと、
存在していた。
久世の喉が、
わずかに動いた。
乾いた声が、
漏れた。
「……神だ……」
それは、
畏怖だった。
絶望だった。
そして、
人類が初めて、
自分たちの外側にある「何か」を、
理解した瞬間だった。




