シーン3:街の崩壊
夜の街は、いつも通り光っていた。
ネオンが瞬き、信号が色を変え、窓の向こうでは誰かの生活が続いている。
その中を、主人公は歩いていた。
ゆっくりと。
ただ、歩いていた。
――その一歩で、
アスファルトが消えた。
崩れたのではない。
砕けたのでもない。
消えた。
最初から存在しなかったかのように、静かに、跡形もなく。
足跡の形に、夜が露出する。
黒い虚無が、地面に穴を開けていた。
主人公は、それを見下ろした。
そして、
何も思わなかった。
再び、一歩。
今度は、道路の脇に立っていた街路樹が消えた。
葉が散ることもなく、
幹が折れることもなく、
ただ、
消えた。
空間が欠けた。
世界が、途中で終わったように。
「……」
誰かが、悲鳴を上げた。
振り向けば、
スーツ姿の男が、腰を抜かしていた。
目を見開き、
口を開け、
理解できないものを見る目で、主人公を見ていた。
「な、なんだ……お前……」
主人公は、
見なかった。
興味がなかった。
また一歩。
ビルの角が消えた。
コンクリートの断面すら残らない。
窓も、
壁も、
中にあったはずの部屋も、
そこにいたはずの誰かの時間も、
まとめて、
消えた。
ビルは、不自然な形のまま夜に沈黙した。
「逃げろ!!」
「何だあれ!!」
「やめろ!!」
叫び声が広がる。
人々が走る。
転ぶ。
ぶつかる。
誰かが泣いている。
誰かが名前を呼んでいる。
世界が壊れている。
――だが。
主人公は、
歩いていた。
変わらない速度で。
同じ歩幅で。
同じ表情で。
興味がなかった。
憎しみではない。
怒りでもない。
復讐でもない。
ただ、
どうでもよかった。
一歩。
信号機が消えた。
赤も、
青も、
黄色も、
意味を失った。
一歩。
道路の白線が消えた。
ルールが消えた。
一歩。
横断歩道が消えた。
秩序が消えた。
一歩。
世界が、
少しずつ、
終わっていく。
主人公は思った。
(……ああ)
(簡単なんだな)
それだけだった。
止めようとは思わなかった。
止める理由がなかった。
救われなかった世界を、
救う理由はなかった。
彼の歩いた後には、
何も残らなかった。
そして、
彼の前には、
まだ、
世界が残っていた。
だから、
主人公は、
歩き続けた。




