第4破壊(65%)
夜だった。
校舎は眠っていた。
廊下の蛍光灯は、いくつかが切れていて、等間隔に闇が落ちている。
主人公は、その闇と光の境界を、静かに歩いていた。
止まらなかった。
止まれば、
戻れなくなる気がした。
戻る場所など、
もう、
どこにもないのに。
目的地は分かっていた。
知ってしまった場所。
知るべきではなかった場所。
監視室。
扉は、
驚くほど簡単に開いた。
鍵は壊れていたのか、
それとも、
最初から意味などなかったのか。
中は、
暗かった。
機械だけが、
生きていた。
無数のモニター。
黒い画面。
その一つに、
手を伸ばす。
指が、
震えていた。
スイッチを押す。
光。
画面が、
目を覚ます。
映像が、
再生される。
最初は、
河川敷だった。
夕暮れ。
見慣れた場所。
見慣れた、
二人。
自分と、
彼女。
少し離れて座っている。
話している。
笑っている。
その光景を、
主人公は、
知っている。
その中に、
いたから。
だが、
次の瞬間、
映像が切り替わる。
場所は、
ここだった。
この部屋。
同じ、
監視室。
画面の中に、
彼女がいた。
制服姿のまま。
だが、
違った。
表情が、
違った。
笑っていなかった。
何も、
なかった。
そこにあったのは、
無だった。
感情のない顔。
人形のような顔。
主人公の知らない、
彼女。
彼女が、
口を開く。
「対象A-17」
自分のことだった。
分かっていた。
それでも、
理解したくなかった。
「精神状態:安定」
彼女の声は、
平坦だった。
あの日、
「ここ、好きなんだ」
と言った時の声とは、
まるで違った。
「依存傾向:増加」
依存。
誰が。
自分が。
誰に。
彼女に。
「処分可能」
そこで、
世界が止まった。
処分。
処分可能。
彼女は、
そう言った。
迷いなく。
躊躇なく。
当然のように。
自分を。
処分可能だと。
映像は、
そこで終わった。
画面が、
暗くなる。
主人公は、
動けなかった。
立ったまま。
呼吸を忘れたまま。
理解してしまった。
全部。
全部だった。
河川敷で、
隣に座ったことも。
笑ったことも。
転んで、
「最悪」
と言って笑ったことも。
「今、笑った」
と、
嬉しそうに言ったことも。
手を握ったことも。
全部。
全部、
任務だった。
作られたものだった。
自分のためでは、
なかった。
任務のためだった。
処分するためだった。
救われた、
あの瞬間さえ。
救いでは、
なかった。
ただの、
手順だった。
胸の奥が、
空洞になる。
何も、
なくなる。
痛みも、
怒りも、
悲しみも、
なかった。
ただ、
空だった。
主人公は、
自分の手を見る。
素手。
あの日、
初めて、
触れた手。
壊さなかった手。
違った。
壊れていたのは、
自分の方だった。
最初から、
壊れていた。
だから、
壊されても、
音がしなかった。
主人公は、
笑おうとした。
笑い方を、
思い出そうとした。
出来なかった。
口は、
動かなかった。
ただ、
立っていた。
誰もいない監視室で。
もう、
どこにもいない彼女を、
失った場所で。




