第2破壊(55%)
夜の施設は、死んでいた。
人の気配がないという意味ではなく、呼吸をしていないという意味で。
白い廊下。
白い天井。
白い床。
全てが無機質で、全てが均一で、全てが、彼の存在を拒絶しているようだった。
それでも主人公は歩いていた。
止まれば、壊れてしまう気がした。
理由は分からない。
ただ、
知らなければならないと思った。
自分が何なのかを。
突き当たりの扉。
電子ロック。
触れる。
――壊れる。
音もなく、内部の回路が崩壊し、扉は沈黙した。
主人公は、それを押し開ける。
中は、暗かった。
だが、中央に一つだけ、
光っているものがあった。
端末。
まるで、
彼が来るのを待っていたように。
主人公は近づく。
画面を見る。
指を伸ばす。
一瞬、ためらう。
なぜ、ためらうのか。
分からない。
それでも、
触れた。
壊れなかった。
画面が点灯する。
文字が並ぶ。
大量の文字。
理解できない記号の羅列。
だが、
一つだけ。
読めるものがあった。
――被験体番号:A-17
主人公は、瞬きをした。
自分のことだと、
なぜか分かった。
――危険度:最上位
呼吸が止まる。
危険。
最上位。
誰が。
何が。
――対策:専用安全装置を配置済み
そこで、
思考が止まった。
安全装置。
安全装置?
何のことだ。
誰のための。
誰に対する。
視線が、下に落ちる。
続きがある。
――安全装置識別コード:S-01
その下に。
名前があった。
彼女の名前。
理解が、
追いつかなかった。
意味が、
形を結ばなかった。
ただ、
文字だけが、
そこにあった。
彼女の名前が。
何度も、
何度も、
目でなぞる。
消えない。
消えない。
消えない。
主人公の手が、
震えた。
「……安全装置……?」
声に出す。
音になる。
現実になる。
安全装置。
彼女が?
彼女が、
安全装置?
何から守る?
誰を守る?
誰から?
――俺から?
その瞬間。
河川敷の夕暮れが、
頭の中に浮かんだ。
彼女の笑顔。
彼女の声。
彼女の温度。
彼女の手。
彼女の、
「うん」
――全部が、
音を立てて、
崩れ始めた。
「……」
何も、
考えられなかった。
何も、
感じられなかった。
ただ、
立っていた。
画面の前で。
自分の前で。
真実の前で。
主人公は、
初めて、
自分が
何も知らなかったことを
知った。




