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君だけが壊せなかった  作者: 南蛇井


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19/39

第2破壊(55%)

夜の施設は、死んでいた。


 人の気配がないという意味ではなく、呼吸をしていないという意味で。


 白い廊下。


 白い天井。


 白い床。


 全てが無機質で、全てが均一で、全てが、彼の存在を拒絶しているようだった。


 それでも主人公は歩いていた。


 止まれば、壊れてしまう気がした。


 理由は分からない。


 ただ、


 知らなければならないと思った。


 自分が何なのかを。


 突き当たりの扉。


 電子ロック。


 触れる。


 ――壊れる。


 音もなく、内部の回路が崩壊し、扉は沈黙した。


 主人公は、それを押し開ける。


 中は、暗かった。


 だが、中央に一つだけ、


 光っているものがあった。


 端末。


 まるで、


 彼が来るのを待っていたように。


 主人公は近づく。


 画面を見る。


 指を伸ばす。


 一瞬、ためらう。


 なぜ、ためらうのか。


 分からない。


 それでも、


 触れた。


 壊れなかった。


 画面が点灯する。


 文字が並ぶ。


 大量の文字。


 理解できない記号の羅列。


 だが、


 一つだけ。


 読めるものがあった。


 


 ――被験体番号:A-17


 


 主人公は、瞬きをした。


 自分のことだと、


 なぜか分かった。


 


 ――危険度:最上位


 


 呼吸が止まる。


 危険。


 最上位。


 誰が。


 何が。


 


 ――対策:専用安全装置を配置済み


 


 そこで、


 思考が止まった。


 安全装置。


 安全装置?


 何のことだ。


 誰のための。


 誰に対する。


 視線が、下に落ちる。


 続きがある。


 


 ――安全装置識別コード:S-01


 


 その下に。


 名前があった。


 


 彼女の名前。


 


 理解が、


 追いつかなかった。


 意味が、


 形を結ばなかった。


 ただ、


 文字だけが、


 そこにあった。


 彼女の名前が。


 何度も、


 何度も、


 目でなぞる。


 消えない。


 消えない。


 消えない。


 主人公の手が、


 震えた。


「……安全装置……?」


 声に出す。


 音になる。


 現実になる。


 安全装置。


 彼女が?


 彼女が、


 安全装置?


 何から守る?


 誰を守る?


 誰から?


 ――俺から?


 その瞬間。


 河川敷の夕暮れが、


 頭の中に浮かんだ。


 彼女の笑顔。


 彼女の声。


 彼女の温度。


 彼女の手。


 彼女の、


「うん」


 ――全部が、


 音を立てて、


 崩れ始めた。


「……」


 何も、


 考えられなかった。


 何も、


 感じられなかった。


 ただ、


 立っていた。


 画面の前で。


 自分の前で。


 真実の前で。


 主人公は、


 初めて、


 自分が


 何も知らなかったことを


 知った。

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