第3幕:真実の暴露 第1破壊(50%)
彼女の指先に触れた瞬間、主人公は、いつものように息を止めた。
壊れる。
その予感は、もはや反射だった。
触れたものは、壊れる。例外はない。ガラスも、金属も、木も、コンクリートも。人間さえも。
だから――触れる瞬間は、いつも、わずかに世界が遠のく。
だが。
壊れない。
彼女だけは。
白い指は、彼の手の中で、その形を保ったまま、静かに存在していた。
温度がある。
柔らかさがある。
生きている感触がある。
主人公は、息を吐いた。
今日も同じだ。
彼女は壊れない。
それだけで、世界は、まだ完全には壊れていないと思えた。
――そのはずだった。
「……」
違和感は、ごく小さなものだった。
彼女の反応が、遅れた。
ほんの一瞬。
本当に、一瞬だけ。
だが、確かに。
迷った。
まるで。
触れられることを、
躊躇したように。
主人公は、眉をひそめた。
「どうした?」
問いかける。
彼女は、こちらを見る。
いつもの無表情。
整いすぎた顔。
感情の揺れを見せない、静かな瞳。
そして、
「……何でもない」
答える。
いつも通りの声。
温度のない声。
だが。
何かが違った。
何が違うのかは、分からない。
声か。
間か。
視線か。
それとも、
今、この瞬間に、初めて生まれた
自分の中の、この感覚か。
主人公は、彼女の手を離した。
彼女の指が、わずかに動いた。
まるで、何かを言いかけて、
やめたように。
「……」
沈黙が落ちる。
部屋の時計の音だけが、やけに大きく聞こえる。
壊れない。
彼女は壊れない。
それは、
ずっと、
救いだった。
なのに。
なぜだろう。
今、
初めて。
壊れないことが、
怖いと思った。
彼女は、静かに手を引っ込める。
いつものように。
何事もなかったかのように。
主人公は、その動きを見つめながら、
理由の分からない疑念が、
心の奥に、
ごく小さなひびのように
走るのを感じていた。
そして、そのひびは、
まだ、
音を立ててはいなかった。




