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君だけが壊せなかった  作者: 南蛇井


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シーン9:中間点 ― 直接接触

夕暮れは、


 すべてを曖昧にする。


 空と、


 地面の境界。


 光と、


 影の境界。


 そして、


 自分と、


 世界の境界。


 


 鹿間斎は、


 河川敷に立っていた。


 隣には、


 水無月ひかり。


 いつもの場所。


 いつもの時間。


 いつものはずの、


 世界。


 


「今日さ」


 水無月が言った。


「風、強いね」


「ああ」


 短い返事。


 それだけで、


 会話は終わる。


 


 沈黙。


 


 だが、


 苦しくはなかった。


 


 以前なら、


 耐えられなかった沈黙。


 今は、


 違った。


 


 隣に、


 彼女がいる。


 


 それだけで、


 十分だった。


 


 鹿間は、


 右手を見た。


 


 黒い手袋。


 


 ずっと、


 外さなかったもの。


 


 ずっと、


 外せなかったもの。


 


 心臓が、


 強く打つ。


 


 思い出す。


 


 笑顔。


 


 声。


 


 温度。


 


 壊れなかった。


 


 消えなかった。


 


 それでも、


 確信はなかった。


 


 確かめていない。


 


 まだ、


 直接は。


 


 ――触れてみたい。


 


 その衝動が、


 胸の奥から、


 溢れてくる。


 


 怖い。


 


 怖い。


 


 怖い。


 


 それでも。


 


 逃げたくなかった。


 


 鹿間の左手が、


 右手の手袋に触れる。


 


 震える。


 


 指先が、


 言うことを聞かない。


 


 呼吸が、


 乱れる。


 


「……鹿間くん?」


 


 水無月の声。


 


 気づいている。


 


 鹿間は、


 答えなかった。


 


 ただ、


 手袋の端を、


 つまんだ。


 


 引く。


 


 ゆっくりと。


 


 少しずつ。


 


 少しずつ。


 


 布が、


 ずれていく。


 


 皮膚が、


 現れる。


 


 空気が、


 直接、


 触れる。


 


 初めて。


 


 世界が、


 直接、


 触れてくる。


 


 手袋が、


 外れた。


 


 完全に。


 


 鹿間の右手が、


 露出する。


 


 裸の手。


 


 何も守られていない手。


 


 何も、


 隔てていない手。


 


「手袋……」


 


 水無月が、


 小さく言った。


 


 鹿間は、


 その手を見た。


 


 自分の手。


 


 壊す手。


 


 奪う手。


 


 終わらせる手。


 


 ――本当に?


 


 わからない。


 


 わからないから、


 確かめる。


 


 鹿間は、


 顔を上げた。


 


 水無月を見る。


 


 逃げないように。


 


 逃げてしまわないように。


 


「……触れてもいいか」


 


 声が、


 震えた。


 


 水無月の目が、


 少しだけ、


 見開かれる。


 


 驚き。


 


 当然だった。


 


 鹿間自身が、


 一番驚いている。


 


 数秒。


 


 沈黙。


 


 世界が、


 止まる。


 


 そして。


 


 水無月は、


 笑った。


 


「うん」


 


 迷いのない、


 返事。


 


 彼女が、


 手を伸ばす。


 


 鹿間も、


 手を伸ばす。


 


 距離が、


 縮まる。


 


 もう、


 戻れない。


 


 指先が、


 近づく。


 


 あと、


 数センチ。


 


 鹿間の脳裏に、


 イメージが溢れる。


 


 壊れる。


 


 崩れる。


 


 消える。


 


 失う。


 


 また。


 


 また。


 


 また。


 


 ――触れる。


 


 


 接触。


 


 


 皮膚と、


 皮膚。


 


 直接。


 


 何も、


 隔てずに。


 


 


 沈黙。


 


 


 世界が、


 息を止める。


 


 


 鹿間は、


 待った。


 


 終わりを。


 


 崩壊を。


 


 消失を。


 


 


 だが。


 


 


 何も、


 起きなかった。


 


 


 水無月の手は、


 そこにあった。


 


 温かい。


 


 柔らかい。


 


 確かな、


 存在。


 


 


 消えない。


 


 


 壊れない。


 


 


 失われない。


 


 


「……あ」


 


 声が、


 漏れた。


 


 鹿間の喉から。


 


 初めての、


 音。


 


 


 水無月が、


 鹿間を見る。


 


 笑っている。


 


 そこにいる。


 


 生きている。


 


 


 鹿間の視界が、


 滲んだ。


 


 


 壊さない。


 


 


 自分は、


 壊さない。


 


 


 その可能性が、


 胸の奥で、


 爆発する。


 


 


 水無月が、


 指を、


 絡めた。


 


 手を、


 握る。


 


 


 強く。


 


 


 逃げないように。


 


 


 離れないように。


 


 


「鹿間くん」


 


 彼女が、


 呼ぶ。


 


 


 鹿間は、


 答えられなかった。


 


 


 ただ、


 握り返した。


 


 


 初めて。


 


 自分の意志で。


 


 誰かに、


 触れた。


 


 


 壊さずに。


 


 


 奪わずに。


 


 


 終わらせずに。


 


 


 触れた。


 


 


 その瞬間。


 


 


 破壊神は、


 


 


 初めて、


 


 


 世界に触れた。

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