シーン7:監視強化
同時刻。
河川敷から数キロ離れた場所。
窓のない部屋。
外界と切り離された空間。
白い壁。
白い天井。
白い光。
すべてが均一で、
すべてが無機質だった。
久世真白は、
部屋の中央に立っていた。
正面の壁には、
巨大なモニター。
そこに映っているのは、
ひとりの少年の顔写真。
無表情。
黒い手袋。
識別番号。
その下に、
文字列。
――対象コード:D-01
真白は、
報告書を読み上げた。
「定時観測報告を開始します」
声は、
感情を排除していた。
「対象コードD-01」
「危険度評価」
一拍。
「――変化なし」
モニターの光が、
わずかに明滅する。
「破壊衝動レベル」
「基準値内」
「暴走兆候」
「確認されず」
形式通りの報告。
問題のない報告。
安全な報告。
だが。
真白は、
言葉を続けた。
「しかし」
部屋の空気が、
わずかに変わる。
「未確認要素を観測」
モニターの画像が切り替わる。
二人の姿。
河川敷。
並んで座る、
少年と少女。
「対象は現在、特定個体との接触を継続」
「接触時における破壊現象」
「――未発生」
沈黙。
その沈黙の奥に、
複数の人間の気配がある。
姿は見えない。
だが、
見られている。
監視されているのは、
少年だけではない。
真白もまた、
監視されていた。
「原因は不明」
「現在も観測を継続中」
報告は、
そこで終わるはずだった。
数秒の沈黙。
そして。
スピーカーから、
声が流れた。
『――確認した』
低い声。
抑揚のない声。
『危険度評価に変更なし』
当然の結論。
『対象コードD-01は』
一拍。
『依然として』
わずかな、
間。
『人類存続に対する』
決定的な、
宣告。
『――最上位脅威である』
真白は、
瞬きをしなかった。
『未確認要素は』
『例外ではない』
断定。
『例外は』
そして、
冷酷な、
定義。
『排除される』
モニターの光が、
白く、
強くなる。
『排除準備を進めろ』
命令。
絶対の命令。
「……了解」
真白は、
答えた。
それ以外の選択肢は、
存在しない。
通信が切れる。
部屋は、
再び、
無音になる。
モニターには、
少年の顔。
鹿間斎。
その隣に、
少女の姿。
水無月ひかり。
真白は、
しばらく、
それを見ていた。
排除。
その言葉の意味を、
彼女は知っている。
それは、
隔離ではない。
保護ではない。
救済でもない。
終わり。
完全な、
消去。
存在の、
否定。
真白は、
ゆっくりと、
モニターに手を伸ばした。
触れる直前で、
止まる。
触れない。
触れることは、
許されていない。
彼女は、
監視官だからだ。
感情は、
不要だからだ。
モニターの中で、
少年が、
わずかに笑っていた。
観測史上、
初めての、
変化だった。
そして、
それは、
――排除対象として、
十分な理由だった。




