第四話
なんだろう⋯⋯。
昨日の夜はあんなに憂鬱な気持ちだったのに朝起きたら清々しい気分が私を包んでいた。
でも、辰之助って橋本君と関係あるのかな?
そうだ。
今日が勝負の日だ。
今日、私は橋本君とキスすることになっている。
私は食堂で朝食を取った後、念入りに歯を磨いた。
「そんなに磨いているとメイク落ちるよ」
そう言って笑う南さんを無視して⋯⋯。
うちの班の自由行動はかなり余裕があるスケジュールになっている。
まずは嵐山の渡月橋。外国人観光客でごった返している。渡月橋を班のみんなで見学した後、近くのお土産屋さんにみんなで入った。
店に入るなり橋本君は私の右手を取り半ば強引に店の外に出て私の耳元でに囁いた。
「二人で野宮神社に行こう」
今日の橋本君は積極的!
やっぱり昨日のキスが影響してる?
橋本君の言葉に私は頷いて橋本君の後についていった。
やってやる!
ん、なんだろう。
今日の私、手汗がすごい。
「ごめん、橋本君。私、手汗がすごいから一旦手を離して」
私はそう言うと手をハンカチで拭き始めた。
ん?
コレって、手を繋ぐより⋯⋯。
橋本君が手をハンカチで拭いて、ふたたび手を繋ごうとする。
よし、そこ!
私は橋本君の左腕に夢中で抱きついた。私たちは野宮神社に向かって歩いていく。
晩秋の嵯峨野って風情がある。
こんなところを橋本君と腕組んで歩くなんて夢みたい⋯⋯。
やがて、野宮神社に到着した。橋本君と一緒に神社でお願い事をした。
橋本君は千円札を賽銭箱に入れる。
えっ?
こういう時って五円じゃないの。
私は五円玉を賽銭箱に入れた。
橋本君との交際がお試し期間の後も続きますように⋯⋯。
その後、橋本君とオソロの縁結びのお守りを買った。
このお守り、どこにつけようかな。
あ、おみくじだ。
当然やるでしょ。
私はおみくじの方へと歩いていく。橋本君もついてくる。
おみくじも二人でやった。
小吉、微妙。
少し俯いていると橋本君は私の手を取って境内の裏へと歩いていった。
橋本君は私を境内の裏に連れ込んで思い切って抱きしめた。
びっくりした!
「小林さん、もうお試し期間はおしまいにしよう。ボクの初めての恋人になってください」
ヤッタ!
そのままの勢いで恋愛未来日記の通りに私は黙ったまま橋本君の唇にキスをした。
これって押し倒しても大丈夫?
私と橋本君は嵯峨野を散策して嵯峨野トロッコ列車の嵯峨野駅を目指す。
マズイ⋯⋯。
このペースだと班のモブたちと合流してしまう。
嵯峨野駅に近づくほどに私の足は遅くなる。遅くなるどころか止まっては後ろに下がる。
そんなことをしていると橋本君がスマホを取り出した。
「小林さん、佐藤君から連絡きてた。十二時のトロッコ列車で二人でゆっくり来ていいよって。どうせボクたちの班はゆったりしたスケジュールだしね」
橋本君はそう言った。
ヨシ!
嵯峨野駅に到着したのは十一時半くらいだった。そして十二時の嵯峨野トロッコ列車に乗った。
嵯峨野トロッコ列車はロマンチックな空気のままトロッコ亀岡駅へとたどり着いた。馬堀駅には十三時に到着し、班のモブたちと合流して京都駅まで戻って昼食をとった。そして伏見稲荷に移動した。
できればここでも橋本君と二人きりで千本鳥居の参道を歩きたい。
モブたちはさっさと行けばいいのに⋯⋯。
私たちは駅から伏見稲荷大社を目指し参道を歩いている。予定では本殿に参拝した後、伏見稲荷大社の全体をみんなで歩いていくことになる。伏見稲荷大社は縁結びで有名だし、おみくじもさっきのリベンジをしたい。その先にある千本鳥居もロマンチックだし。それに嵯峨野はキスのことで頭いっぱいで写真撮るのすっかり忘れてたし。
とにかくこのモブ四人とさっさと別行動したい!
私は橋本君の左腕に思い切って抱きついた。そして、嵯峨野の時と同じく歩くペースを亀のように遅くしてモブ四人との距離をとっていく。そんなことをしていると、橋本君がスマホを取り出した。
「佐藤君から連絡があって、ゆっくりしていいよだって。でも、本殿の先の千本鳥居までは行きたいよね」
ヨシ!
千本鳥居だから橋本君とのツーショは千枚が目標だ。
さっさと行かないと日が暮れちゃう。
そんなことを思っていると、あっという間に本殿にたどり着いた。本殿に着くと私と橋本君は参拝する。
橋本君はまた千円札を賽銭箱に入れた。
何を熱心にお願いしているの?
私はさっきと同じく五円玉を賽銭箱に入れた。
橋本君とずっと仲良くいられますように⋯⋯。
さっ、おみくじ。
おみくじ!
私と橋本君はおみくじのところへと歩いていく。
小吉。
京都のおみくじは小吉しか出ないのか!
橋本君は大吉⋯⋯。
「橋本君、本殿をバックにツーショ撮っていい?」
私は鬱憤を晴らすように橋本君とのツーショを連写する。そして、私と橋本君はそのまま千本鳥居に向かって歩いていく。
時間がないからツーショ連写だ!
「あ、橋本君。もう時間だから帰るよ」
くっ!
もう来たのかよ。
モブたち。
「小林さん帰ろう」
橋本君に言われたら帰るしかない。
その日の夜、私がシャワーから出てくると、南さんが腕組みをして椅子に腰掛けていた。
うわっ、なんか怒ってる!
「小林さん、ちょっといい」
何、何、私のスッピンってそんなに⋯⋯。
「ななな何?」
「昨日の夜のことだけど⋯⋯」
よかった。
私のスッピンのことじゃないみたい。
「あなた、この部屋に誰か入れた?」
「夜だよね。シャワーから出たら誰もいなかったけど、何か盗られたの?」
南さんは私の言葉に首を横に振る。
「ただね、私が部屋に戻ってきた時に部屋の中から男の声が聞こえたのよ。あなた、私が部屋に入る前に動画か何か見てた?」
南さんの言葉に私は首を横に振った。
「シャワーから出たら部屋が真っ暗だったので、そのままベットに入って寝たわ。そ⋯⋯」
南さんは私の言葉を最後まで聞かずに口を挟んできた。
「ちょっと待って! あなたがシャワーを浴びている時に私は出ていったけど電気はつけっぱなしよ。どういうこと?」
「どういうことって言われても⋯⋯」
南さんの言葉に私は口ごもる。
「男の声だったけど私は聞いたことがない声だったわ。私が部屋のドアを開けるとその声はピタリと止んだわ。困ったわね」
「何も被害がないんなら別にいいんじゃないの⋯⋯。この部屋だけ停電になってたのかもしれないし」
「そお、あんまりオカルトとか信じたくないけど⋯⋯」
南さんの言葉に私は心の中で苦笑いをする。
恋愛未来日記は信じているのに?
修学旅行最終日は午前中京都市内観光し、午後は帰途についた。帰りの新幹線も橋本君の隣だったが二人とも疲れていたため東京駅までひたすら眠っていたそうだ。帰りはみんなに認識されていたみたい。




