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君逝く朝に  作者: 杉山薫
第二部 修学旅行 第一章 小林さくら編
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第三話

 今、私は電車に乗っている。すごい緊張している。普段、電車なんて乗らないっていうこともあるが、この後橋本君と大宮駅で待ち合わせをするからだ。東京駅まで二人きり。つまりデートってことだ。考えれば考えるほど緊張してくる。てか、なんで土曜日の朝なのにこんなに人が電車に乗ってんだよ。用がないなら家で寝てろよ。そんなことを考えていると大宮駅に着いた。


まめの木。

まめの木。

あった。

これか⋯⋯。


人がいっぱいいすぎて橋本君がどこにいるのかわからない。


「おはよう、小林さん」


橋本君が声を掛けてきた。


「おはよう、橋本君」


ヤバっ!

今、絶対ニヤけてる。


「遅れるといけないから行こうか」


橋本君は大宮駅の改札の方へ歩き出していく。


「そういえば何がわかったの?」


突然、橋本君は振り向き私に話しかける。


わかった?

返信したよね⋯⋯。


私はスマホを取り出しラインを確認する。


アレ、大好きっていう返信がない。削除された形跡もない。

誰かに誤送信した?

マズい!

橋本君が大好きって誰に誤送信しちゃったの⋯⋯。


「へへへ、内緒」


私は真っ赤な顔で橋本君にそう言うのがやっとだった。


 東京駅までの電車は大宮駅始発の電車に乗った。二人で隣同士で座った。私は用もないのに橋本君に身体を寄せる。橋本君の体温が伝わってくる。いいよね、恋人同士なんだから⋯⋯。お試し期間中だけどね。


「小林さん」


橋本君が耳元で囁くので私は彼に顔を向ける。橋本君は真っ赤になって一言だけ言った。


「明日、嵯峨野で」


明日、嵯峨野で?

何。

何!


そんなこんなで東京駅に到着してしまった。新幹線も隣同士の席だけど、クラスのみんなの目があるからそんなにくっつけない。やがて新幹線のホームに集団で歩いていく。すると、南さんが私に近づいてくる。


「おはよう、小林さん。よろしくね」


南さんとは今回の修学旅行は二日とも二人部屋で同室なのだ。私としてもスッピンを見られるのが南さんひとりなので都合がいい。


「こちらこそよろしく」


もう、こういうのはいいんだよ!

早く橋本君とイチャイチャさせろ。


やがて、新幹線が静かにホームへと滑り込んくる。橋本君はすでに席に着いていた。


ふふふふふ、計画通り!


橋本君は窓際、私は通路側の席。そして、こっち側は太平洋側の窓。海が好きとか言えば橋本君にくっつき放題。明日のためにボディタッチに違和感を感じさせないためにやるだけやっておく。なんてたって明日は橋本君とキスをすることになってんだから!

頼むぞ、恋愛未来日記!


「旅行バック貸して。棚に上げとくよ」


そう言って、橋本君は私の旅行バックを棚に上げる。


橋本君とオソロの旅行バックが二つ並んでいる。

アレ?

なんだろう。

この違和感⋯⋯。


それより、それより、早く海見えないかな。


神奈川県に入ると海が見え始める。いや、まだ我慢だ。東京湾程度ではしゃぐって絶対に不自然だよ。太平洋だって新幹線だったらもうすぐ見えるはず。そこまでは我慢。しかし、このひじ掛けは邪魔だな。


えーい、今のうちにあげちゃえ!


私がひじ掛けを上げると橋本君はさりげなくひじ掛けを下げる。


クソ!

彼女がひじ掛け上げたのを下げる彼氏って、おそらく世界で橋本君だけだよ。

もういい。

その瞬間がきたら一瞬でひじ掛けを上げて、橋本君に身体を預けちゃうもんね。


よし、小田原を過ぎた。

もうすぐ太平洋が私たちの眼前に現れるはず。

見たことないけど⋯⋯。


来た!


私はひじ掛けをさっと上げ、窓際の席に。


えっ?


私の目の前には橋本君の顔があった。


 こうして私のファーストキスはロマンチックな要素ゼロで終わってしまった。まあ、相手が橋本君なのが唯一の救いだ。


さっきの違和感の正体がわかった。


クラスのみんなが私たち二人を視界から外している。間違いない。旅行バックがオソロなのも誰も反応しないし、事故のようなキスも誰も気付かない。


気付かない?

本当に?


なんだろう。

何かの壁で守られているような気がする。


だって、橋本君は文化祭以来、女子の人気が高いっていう噂があるのに、なんで誰も私たちを気にしない。

てか、恋愛未来日記、一日日付がズレてるよ。こういうのは心の準備が必要なんだからね⋯⋯。


私と橋本君は気まずくなって京都駅まで無言で俯いていた。


 京都駅に到着すると清水寺に移動するためバスに乗った。私の隣の席は南さん。


「そういえば、あなた達、東京駅から京都駅までどこに行ってたの?」


南さんが私に話しかける。


はあ?


「どこにって、私も橋本君もずっと席にいたわよ」


「そんなことないでしょ。あなた達の席はずっと空席だったわよ。まあ、みんな気を使って気付かないふりをしてたけど⋯⋯」


みんなには私と橋本君の姿は認識されていなかったということ?


「ところでさ、ホテルの部屋の話なんだけど⋯⋯」


私は必死に話題を変える。


「私もあなたに大事な話があるの」


「恋バナ?」


南さんの言葉に私は即座に聞き返す。すると、南さんは黙って頷く。


えっ、意外!


「へえぇ、じゃあ楽しみにしてるね!」


「そんなに楽しい話じゃないわよ」


アレ、怒ってる?


 その後、清水寺を団体観光し昼食、八坂神社や金閣寺を団体観光してホテルに到着した。私の部屋は二人部屋で南さんと同室。おそらくこれは南さんの力が働いている。他の女子はみんな六人部屋だから。


「まあ、シャワーは寝る前でいいんじゃない。あんたにも都合があるんだから⋯⋯」


南さんはそう言って部屋についているシャワーを浴びにいった。私はその間に修学旅行のしおりを開いて、もう一度明日の予定をチェックする。心の準備がなかったとはいえ、キスの後に無言だったのは非常にまずい。恋人お試し期間はこの修学旅行までだから、なんとかしないとお試し期間終了で破局になってしまう可能性もある。なんとか明日の自由行動中に橋本君と二人きりになっていちゃいちゃしなければ。ロマンチックな嵯峨野がベストだけど、伏見稲荷の鳥居も捨てがたい。


そんなことを考えていると、南さんがシャワーから戻ってきた。


この後、南さんから衝撃的な言葉を聞くとも知らずに私は修学旅行のしおりをベットに寝転んで熱心に見ていた。


「小林さん、時間ある?」


シャワーから戻ってきた南さんは私に笑いかけながらそう言った。


「食堂の集合時間までまだ少しあるよね。何?」


えっ、ひょっとして恋バナ?

時間的に早いような気がするけど⋯⋯。


「そう、あなた恋愛未来日記って知ってる?」


南さんの言葉に私はドキッとするが、思わず首を横に振ってしまった。


「そう、橋本君の相手だからてっきり知ってるもんだと思ってた。どこかで恋愛未来日記のことを聞いたら私に教えて」


なんで橋本君の相手だと恋愛未来日記を知ってるの?

知ってるっちゃ知ってるけど⋯⋯。


「わかったよ。恋愛未来日記って何? それ自体がわからないとね」


私はとにかくしらを切ることにした。


「名前の通りよ。恋愛に関して未来で何が起きるか書いていく日記だよ。いいでしょ。なんでも叶うのよ」


知ってます。


「でもね、問題なのはここから。恋愛未来日記を使った人は一年以内に死ぬのよ。怖いでしょ」


「へえぇ、でもそんなの都市伝説みたいなもんでしょ?」


怖いよ。

怖い⋯⋯。


「私の地元にある高校では数年前に恋愛未来日記が流行ってね。数十人が亡くなってね。禁止になったのよ。恋愛未来日記が⋯⋯」


「偶然でしょ」


「亡くなった生徒の全員の遺品から恋愛未来日記が出てきたらしいけど⋯⋯。私の母さんも私を出産した時に亡くなっているのよ」


「恋愛未来日記は出てきたの?」


怖い。


「義父さんに聞いたけど日記帳の類は出てこなかったらしい」


なんだ、やっぱり偶然だよ。


「私の母さんはここの教師だったんだけど産休に入る前にある生徒に日記帳を渡したらしいの」


「へえぇ、そうなの」


なんだよ、急に身近な話になってきたよ。


「その生徒もすぐに交通事故で亡くなったらしいわ。気になる?」


私は怖くなって首を横に振る。


「その生徒の名は橋本辰之助。聞き覚えがある? なんか橋本龍之介と名前の響きが似ていると思わない?」


ハシモトシンノスケ⋯⋯。

確かに橋本君と名前が似ているけど。


「へえぇ、そうなんだ。初耳だよ、その名前」


「まあいいわ。とにかく何か情報が入ったら私に教えて。取り返しがつかないことになる前に。もう時間ね、食堂に行きましょう」


私は黙って頷いて部屋を出ていった。


 食堂で夕食をとったが味なんかしなかった。みんなは美味しい美味しいと言っていたが。理由は簡単だ。南さんから聞いた恋愛未来日記の噂。一年以内にみんな死んでしまうなんて、もう、生きた心地がしない。私は生きた心地がしないまま部屋に戻ってシャワーを浴びる。シャワーから戻ると部屋は真っ暗だった。


おそらく私がスッピンを見せたくないと思っていると、南さんが気を利かせてくれたのだろう。別に南さんくらいだったら見られてもよかったんだけど。私はそのままベットに横になり、布団を頭からかぶり眠りについた。


その夜、私は不思議な夢を見た。音のない夢だった。


ここは私の店の前の道路らしい。店の前を私は雪かきしている。見知らぬ男の子が何か必死に叫んでこちらに駆け寄ってきた⋯⋯。


そこで私は目が覚めた。

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