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君逝く朝に  作者: 杉山薫
第二部 修学旅行 第一章 小林さくら編
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第二話

 今年の修学旅行は十一月一日から三日の三連休に京都に行く。初日は午前に京都への移動と午後に京都観光。京都観光はクラス単位の行動で私たちのクラスは清水寺、金閣寺、八坂神社。バスで移動するのだがバスの席順はホテルの部屋割と一緒、つまり私の隣は南さん。


気が重い⋯⋯。


明日、修学旅行の準備の買い物にでも行くか。

そんなことを思いながら店に出ると橋本君が来ていた。食事も終わり会計中だ。


「いらっしゃい。橋本君、明日文化祭の代休だよね。修学旅行の準備で買い物行きたいんだけど一緒に行かない?」


私は慎重に言葉を選ぶ。


「明日いいですよ。どこにします?」


「私、春日部がいい。ダメ?」


春日部にはデパートがあるのでそこでお買い物デートがしたい。橋本君の家も近いはずだしね!


橋本君は少し顔を曇らせたが結局は頷いてくれた。


「じゃあ、東口改札で十四時でどう?」


「わかった。東口改札、十四時ね」


ふふふふふ、これでデートの約束ゲット!


「ちょっと、さくら。連絡先は知ってるの?」


橋本君がそのまま帰ろうとすると貴子叔母さんが助け舟を出す。


「じゃあ、ライン交換しよう」


私はそう言ってスマホを差し出す。


ああ、もう!

絶対、今⋯⋯耳まで真っ赤だよ。


橋本君もスマホを出して連絡先の交換を済ませた。


「あたしの高校時代の元カレも橋本君っていうんだけど、当時は彼が携帯持ってなくて大変だったんだよ」


貴子叔母さんが苦笑いをしている。


へえぇ、貴子叔母さんの元カレって橋本君っていうんだ⋯⋯。


 私は恋愛未来日記を前にして悶絶している。明日着ていく洋服は三時間くらいで決まった。下着も含めて⋯⋯。どうせ見せることもないんだけどね。それがいけなかった。恋愛未来日記を前にすると欲望が止まらない。最初は夕食を一緒に外食するくらいの軽い気持ちで恋愛未来日記を開いたんだけど⋯⋯。


どうせ告ったんだから、押し倒したって問題ないよね。でも、違法行為を記入するとその日付の記入が全部無効になっちゃう。押し倒すのって違法行為? さっきから一時間くらいそれの繰り返し。


んー、もういい!


明日はオシャレなカフェで橋本君と一緒に夕食を食べる。


十月二十一日 小林さくらと橋本龍之介君は一緒に外食する。


私は『。』に想いを込める。


 翌日、午後一時、春日部駅東口改札、私は待っている。別に時間を間違えたわけではない。ただ、居ても立ってもいられないので、一時間早く家を出ただけ⋯⋯。

午後一時半、橋本君が到着した。


「ごめん。待ちました?」


「あ、今来たところだから大丈夫。顔の腫れ、だいぶ良くなったね」


「へへへ⋯⋯」


橋本君は少し照れながら俯く。


やっぱり押し倒すって書けば良かった!


「小林さん、お腹いっぱいかな? 早めに来て、軽く昼食取ってからここに来ようと思ってたんだけど⋯⋯」


ん、もしかして私が待っていたから⋯⋯。


「じゃ、一緒に行く?」


私の言葉に橋本君は向こうを指差す。


「あんまりオシャレなとこじゃないけどいい?」


おいおいおい!

夕食どころか昼食デートもゲットだよ。

恐るべし恋愛未来日記!


 昼食デートは駅前の喫茶店。橋本君は日替わりランチ、私はいちごパフェ。


うんまい!


「橋本君って、どんな子供だったの?」


まずは無難な質問から。


「ボクは陰キャなモブだから⋯⋯。小林さんが思っているような男じゃないから⋯⋯」


私が思っているような男?

ん?

なんで私は⋯⋯。

ま、いいか!


「そんなんじゃ、ダメだぞ。プンプン」


アレ?

なんか橋本君が戸惑ってる⋯⋯。

どうしよう。

困った時にはこれを使えって⋯⋯。

貴子叔母さんに教えられたのに。


「えっと、おいしそうだね。いちごパフェ」


橋本君に気を使わせてる?


「じゃ、一口だけならいいよ」


私はさっきの汚名挽回のため勝負をかけ、自分のスプーンでいちごパフェをすくい橋本君に差し出す。橋本君は少し戸惑いながらもいちごパフェを食べてくれた。


アレ?

これって押し倒しても大丈夫じゃね。


食事が終わった後に買い物デート。今日買うのは旅行バックと雑貨類。最初に旅行バックを買うことになった。


「橋本君はどんな色が好き?」


「青かな⋯⋯」


青かぁ。

私は元々陰キャだから当たり障りのない黒が好きなんだけど⋯⋯。

仕方ない。

背に腹は代えられない。

ここは青の旅行バックだ!

オソロの旅行バックで修学旅行に行くぞ!


「じゃ、私も青にしよう」


私がそう言うと橋本君は言葉を失った。私はそのまま青い旅行バックがある方へと歩いていく。


「私もって? 小林さんはピンクとかがいいと思うよ」


「ピンクって⋯⋯。橋本君もピンクってこと? キャハハウケる」


「なんでボクもピンク?」


「だって、オソロにするからだよ!」


橋本君はふたたび言葉を失って黒い旅行バックがある方へと歩いていった。


「やっぱり黒がいいかな⋯⋯」


橋本君の言葉に私はホッとした。


なんだ。

それならそうと早く言ってよ!


「黒ってオトナの感じだよね。やっぱり私は黒だよ」


橋本君は苦笑いをしている。その後、私たちは雑貨類を買いそろえた。


後はアレ!


「橋本君、最後はアレだよ」


「アレ?」


「やっぱりアレは白がいい?」


「だからアレって何?」


「し た ぎ」


私の言葉に耳まで真っ赤にして俯く。


「どれでもいいんじゃない⋯⋯」


「どれでもって、橋本君もだよ!」


「えっ、ボクも?」


「そうでしょ。オソロだし」


橋本君は少し考えて口を開いた。


「黒でいいんじゃない」


くく黒って!

おおオトナすぎない。


「黒! いいんじゃない。じゃあ、ランジェリー売場に行くよ」


「いや、ボクはこれでいい」


そう言って橋本君が手に取ったのは黒のボクサーパンツ。


ボクサーパンツ?

マジで⋯⋯。

仕方ない。


「じゃあ、私も!」


私はそう言って橋本君と同じ黒のボクサーパンツを手に取る。


「オソロだよ。うふふ」


「えっ、オソロって色だけじゃないの?」


えっ?

普通そうなの。

オソロって、同じものってことじゃないの?


「ハハハ、ジョークよ。ギャルジョーク! じゃ、ランジェリー売場に行くよ。橋本君」


私はそう言って橋本君の手を取ってランジェリー売場に直行する。


「ボクは入口で⋯⋯」


橋本君の言葉に耳を貸さずに黒のランジェリーの売場に到着した。


「橋本君、彼女がどんなの着たら興奮する?」


耳まで真っ赤な橋本君は俯いて一点を指差す。


Tバック!

マジか。

修学旅行でTバックデビュー。

でも、橋本君が望むならやってやる!


あ!


私は日和って隣の下着を手に取る。


そうよ。

そうだわ。

修学旅行で下着を見せるのは女子くらいだから、何もTバックじゃなくたっていいんだ。

そうよ。

黒ランジェリーってだけでオトナなんだよ!


「橋本君、ちょっと試着するけど」


私は橋本君の手を取って試着室へと向かう。橋本君は観念したのか素直についてくる。


アレ?

これ、ひょっとして押し倒せる?

大丈夫?

私⋯⋯。


私は試着室で黒ランジェリーに着替える。


「橋本君いる?」


「います」


よし!


「橋本君、見る?」


答えがない。


「橋本君、いないの?」


「います」


「じゃ、彼女のランジェリー姿見ておく?」


返事がない。


えっ、彼女っていうのがダメなの?

マジかぁ。


私は試着を諦めて会計に行く。


「私が彼女じゃ不満?」


私は涙目で橋本君に訴えかける。


「ボクなんかじゃ⋯⋯」


「橋本君じゃなきゃダメなの⋯⋯。なんでわかってくれないの?」


私はそう言ってその場を逃げ出した。その日の夕方に私は自分の部屋に戻って布団を頭までかぶった。


でも、冷静に考えるとなんで私は焦っているのだろう。そして、なんで橋本君じゃなきゃダメだと考えているんだろう。


さっきからラインやら電話が私のスマホに入ってきている。間違いなく橋本君なんだろうけど出たくない。だって、もう嫌われたんだろうから⋯⋯。


 その日の夜、貴子叔母さんが私の部屋に入ってきた。


「橋本君来たよ。なんか荷物持って来たよ。何があったか知らないけど、礼くらい言っときな」


私は布団から顔だけ出す。


「この顔で?」


「ひっでぇ顏だな。そんな顔でもだよ。橋本君がそんなこと思うわけないだろ」


私の泣き腫らした顔を見て貴子叔母さんは苦笑いをする。


「ヤダよ! こんな顔を橋本君に見せるなんて! 私は橋本君が大好きなの! 私、明日学校休むから⋯⋯」


私はそう言ってもう一度頭から布団をかぶった。


「仕方ないね。勝手にしな」


貴子叔母さんはそう言って店に出ていった。


 その日の真夜中、みんなが寝静まったのを確認して私は台所に向かっった。台所には私が今日買った旅行バックなどが置いてあった。私は食べ物を冷蔵庫から取り、部屋に持っていくため旅行バックなどを持ち上げた。何かがポトリと床に落ちた。


手紙?


『ごめんなさい』


そう一言だけ書かれた手紙。


私が一人で暴走して、一人で⋯⋯。


私は無我夢中になって自分の部屋に戻ってスマホを見る。橋本君からのラインを確認すると橋本龍之介君の自責の言葉ばかりだった。私は一言だけ送信した。


『大好き』


やっぱりダメと思い削除しようとした時に橋本君から返信がきた。


『知ってる』


私が通話ボタンを押すと橋本君はすぐに出てくれた。


「ごめんね」


「ごめんは私のほうだよ」


「じゃ、今回はお相子ってことでいい?」


私が黙り込んでいると橋本君は話を続ける。


「明日の朝話したいことがある。ポプラ並木の前で待っているから⋯⋯。おやすみ」


そう言って橋本君は通話をきった。


 翌朝、私は気合いを入れてギャルメイクをした。そして、昨日買った黒のランジェリーを身に纏って家を出る。自然と鼻歌が口をつく。ダメだ。スキップしてる。間違いない。外から見たら浮かれ気分のギャル女子高生にしかみえない。学校に到着すると私はポプラ並木へと急ぐ。


橋本君だ!


「おはよう、橋本君。昨日はごめんね」


私はめいいっぱい可愛いさをアピールする。


「ボクも煮えきらない態度ばっかりだったから⋯⋯」


橋本君は俯きがちに言葉を選んでいる。


「大丈夫、なんか私ひとりで暴走してひとりで自爆しちゃったから、気まずくなって逃げ出しただけ」


うわっ、なんか涙が出そう⋯⋯。


「それでね。修学旅行までのお試しだけどボクとお付き合いしてください。今朝はそれだけを伝えたくて⋯⋯」


橋本君がそう言った瞬間、私は橋本君に抱きついた。涙でぐちゃぐちゃになった顔を隠すように⋯⋯。


 今日は十月三十一日。明日から修学旅行。集合場所は東京駅の新幹線改札前。うちからは私鉄とJRを乗り継いでいくことになる。しかし、私は途中下車することになっている。大宮駅で橋本君と合流するためだ。なんてたって私と橋本君とは恋人同士。当たり前だよね。お試し期間中だけど⋯⋯。問題はどこで黒のランジェリーを使うかだ。やっぱり二日目の自由行動で班のみんなとはぐれたふりをして橋本君と二人きりになって押し倒す。それしかない。ということは二日目だ。もうひとつは恋愛未来日記を持っていくかどうかだ。持っていくのはいいが、なくしてしまうと面倒だけど、かといって事前に書いておくっていうのは少し不安だ。


どうする?


そんなことを考えていると橋本君からラインがきた。


『日記帳は持ってきてはダメ』


えっ!

なんで橋本君が恋愛未来日記のことを知っているの?


私は橋本君に『わかった』と返信した。すると、橋本君から『何が?』と返信がきた。


ん?

アレ、さっきの日記帳の部分がない。

しかも、削除された形跡もない。

幻だったの⋯⋯。


とりあえず私は『橋本君が大好きだってこと』と返信した。


日記帳を持っていかないので私は一個だけ恋愛未来日記に書き込む。


十一月二日 小林さくらは橋本龍之介君にキスする。


私は『。』に想いを込める。

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