259200秒
思った以上に勉強は捗った。自慢じゃないけど私は頭が良かったから。
この調子なら皆とおなじように入試をうけても大差なく解けるかもしれない。
通知表が全部斜線じゃなかったら、全日制高校の道もあったのかな。
夜になり、1階へ降りると、母がお財布を持って待っている。
「はい、そろそろかと思ったわ。女の子と何か食べなさい」
今日は千円札が2枚。
「ありがとう。いってきます」
「いってらっしゃい」
今日もミィちゃんがイートインコーナーにいる。
いつものようにおにぎりを頬張っている。
見慣れた光景だ。と思ったら、足元に見慣れない小さなボストンバッグを見つけた。
「そのバッグ、どうしたの?」
「ああ、これ?」
よいしょっとボストンバッグを膝の上にのせる。
「これはね、タカラモノ。ミィはね思うことがあるの」
「ん?」
「自分が死ぬときは、このくらいの小さなバッグにタカラモノを詰めて一緒に棺に入れてもらおうって」
「…」
「このくらいなら神様も許してくれそうじゃない?」
「…」
「…そんな顔しないでよ」
私はどんな顔をしていたんだろう。
「安心して!ミィは蝉だから。このバッグの中は全部ナスときゅうりとスイカだよ」
「なんでナスときゅうりとスイカなの?」
「なんとなく、蝉が食べそうじゃない?」
「それってカブトムシとかクワガタじゃないの?」
「じゃあ、樹液。このバッグの中、全部樹液です」
ミィちゃんは笑っていた。
全然、笑えない。
「ミィが死んだら、棺に入れてね」
「…絶対嫌」
「…じゃあ、あなたが持ってて」
「…」
「ミィのこと、忘れないでね。忘れても…いいけどね」
「…帰る」
ミィちゃんの顔がみれない。
怒鳴りつけて当たり散らして泣き喚いてやりたい。
私の気持ちを知ってるくせに、私がミィちゃんのこと大事なこと知ってるくせに。
涙をぬぐいながら、コンビニを後にした。
ミィちゃんはどんな顔をしているんだろう。
何を思っているだろう。
家の近くまで歩いて、冷静になってみると貴重な時間を無駄にしてしまったことを後悔した。
立ち止まって、コンビニへ戻る。
物陰に隠れて、遠くからガラス越しにイートインコーナーを眺めた。
ミィちゃんは泣きじゃくっていた。
両手で涙をグシャグシャ拭いながら、子供みたいに泣きじゃくっていた。
奥歯を、かみしめる。
神様がいるのなら、どうか、時間を止めてください。




