518400秒
母の熱はどうやら下がったようだ。
お仕事はまだお休みなのかな…。日中も気配がして落ち着かない。
この落ち着きのなさは、変化しつつある関係に動揺しているのかもしれない。
残された時間、ミィちゃんと映える写真撮影のための小道具やシチュエーションを考える。
夏といえばナイトプール?花火大会?いやいや無理無理。ハードル高すぎ。
結局何も思いつかないまま夜になった。
いつもの薄手のパーカーを取り出し…私はそれを、着なかった。
せっかくの写真。ミィちゃんの思い出に残るもの。
私は私でありたい。
「コンビニ、行ってくるね」
いつもと違う格好に母は驚いた顔をしていた。
「うん、いってらっしゃい」
コンビニへ行くとミィちゃんは店員さんと仲良さそうに話していた。
ミィちゃんに戸籍があったなら、フツウの家庭に育っていたなら人気者になれただろうな。
蝉のときもたくさん求愛行動されていたに違いない。
蝉界のアイドルだったかもしれない。
ミィちゃんがこちらに気付いて驚いてかけよってきた。
「今日はいつもと違うね!きみはそんな顔をしていたんだね!」
「あんまりジロジロみないでね、写真のために我慢してるんだから…」
ニヤニヤしながら「かわいいよ」っていうミィちゃん。
転生した姿が女の子でよかった。男の子になっていたらきっと恋してしまう。
「ふふ、さっきね線香花火を買ったの」
「線香花火?」
「店員さんが裏口でだったらこっそりしていいよって」
店員さんのほうをみると親指を立ててグーのポーズをしている。
「バケツもかしてくれるし、ライターも私物かしてくれるって」
なんて粋な計らい。
「ミィ準備してくるから、その間にお買い物しておいでよ」
そう言い残して駐車場から裏口のほうへかけていった。
「あの、大丈夫なんですか?」
「オーナーには内緒でお願いね」
線香花火は1袋に4本入っていた。
それぞれ1本ずつ取り出して先っぽにライターで火をつける。
そこで肝心なことに気付いた。
「ちょっと待って、これって写真撮れなくない?」
「大丈夫!それも店員さんに頼んだから!」
店員さんが慌ててカメラを持ってやってくる。
「はい、笑顔で!ハイチーズ!」
1枚撮って、すぐに店内へ戻っていく。
それがおかしくて思わず笑みがこぼれる。
「線香花火、すっごく久しぶりにした」
「ミィはおばあちゃんと毎年花火したよ」
「花火大会は?」
「行けないよ~」
「私も、同級生に会いたくないから」
「会いたくないの?嫌いなの?」
「だって、恥ずかしいから。中受に失敗してね。みじめで情けなくてさ」
「チュージュ?よくわかんないけど、ミィは一緒にいてしあわせだよ」
大きな感情の渦がこみあげてきて、泣きそうになった。
もしかしたら涙目にはなっているかもしれない。
「あとで、アイス食べてる写真も撮ろう!ソーダバーのやつ」
「それから、新商品のおにぎり食べてる写真も」
「あと公園でブランコに乗ろう!」
ミィちゃんはずっとしゃべっていた。
こちらの様子なんておかまいなしに。
満たされていく。
ミィちゃんの心をおばあちゃんが満たしたように、
私の心をミィちゃんが満たしていく。
私は一体だれを満たせるであろう。
傷つけることしかしてこなかった私が。




