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ひと夏の透明  作者: ここやまいぬこ


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ぬけがら.2

1ページ目から、ゆっくりとめくる。

学校へ通ったことがないとは信じられないくらい綺麗な字で日々のことが書かれていた。


おばあちゃんとの日常。

自分の存在意義に悩みリストカットしたこと。

初めてオーバードーズしたこと。


6月 日

私がお菓子を食べてみたいと言ったら、

おばあちゃんに虫歯になったら歯医者へ連れて行けないからダメだと言われた。

TVでみたチョコレイトが食べてみたい。アイスが食べてみたい。

みんな当たり前に食べるものを私は食べられないの?

おばあちゃんに本を投げた。買って来いって、服を投げつけた。

おばあちゃんは泣きそうになりながら、その服を着てコンビニへ出かけた。


7月 日

初めて、家の敷地外へ出た。おばあちゃんが事故にあって、役所の人とかたくさん来て、

嘘をついてみたけど嘘に嘘を重ねていたらよくわからなくなって本当のことを話した。

どうやら未成年で他人の私はこの家に住めないし保護の対象になってしまうらしい。

新しい名前、新しい家、新しい人生が待ってるから安心してねと女の人が言った。

私がおばあちゃんを殺した。おばあちゃんに黒い服を投げつけた。

取り返しのつかないことをして、大切な人を一生涯失った。


7月 日

おばあちゃんのバッグにチョコレイトが入っていた。コンビニのシールが貼ってある。

グシャグシャでとても食べられたものじゃない。指ですくってみたら甘くてびっくりした。

食べたいなんて思わなければよかった。最後に外の世界をみてから、死のう。

どうしたって、どう生きたって、ヒトゴロシの私はおばあちゃんと同じ場所には行けない。


7月 日

たくさん歩いて、コンビニにたどり着いた。おばあちゃんがよく行ったコンビニ。

「いらっしゃいませ」って本当に言うんだ。面白いな。

お金を持ってなくてチョコレイトを万引きしようとしたら、

全身黒づくめの女の子に見つかった。びっくりして思わず逃げた。女の子も連れて。

私は『ミィちゃん』になった。

その子は万引きを注意し、カカオアレルギーを心配してくれた。なんて優しい子だろう。


7月 日

今日は女の子にアイスをもらった。ピカピカひかるタスキをつけて帰った。

面白い。蛍みたいにピカピカ光って帰っていく。

この子ともっと話をしてみたくて「会える?」って聞いちゃった。

トモダチがいたらこんな感じなのかな。


7月 日

児童相談所の人や市役所の偉いひとたちがきて、いろんなことを聞かれた。

怖くて、不安だった。ずっとここに居たい。新しい名前なんていらない。

『ミィちゃん』以外の名前なんていらない。

色々な手続きを終えたらここを去らないといけないらしい。

久しぶりにパニックになってお薬をたくさん飲んだ。起きたら夜中の2時。

慌ててコンビニへ走ったけど女の子はいなかった。


7月 日

今日も女の子は来なかった。


7月 日

今日も女の子は来なかった。


7月 日

女の子に会えた。もう一生会えないかと思ってすごく怖かった。

会えないというものは、胸が千切れるほどに痛い。

女の子が私をギュッとした。

人間って暖かいんだなあ。

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