ぬけがら.1
どれだけ待っても、どれだけ探してもミィちゃんは、いなかった。
「お、いらっしゃい。久しぶりだね」
いつもの店員さんだ。どうやら体調が良くなったらしい。
「ちょっと待ってて」
そう言ってスタッフルームに消えていった。
しばらくして戻ってきた店員さんの手には、ミィちゃんの小さなボストンバッグがあった、
「あ…それ」
「家の都合で引っ越すんだって?渡し忘れたからって頼まれたんだ」
「いつですか?いつ頼まれたんですか?」
「僕がインフルに罹る前だから…あ、ケーキを買ってたでしょ?あの次の日きみが帰ったあと」
最後に会った日。ミィちゃんはコンビニに戻って、バッグを店員さんに預けていたんだ。
「渡せてよかったよ。あのあと寒気がしてきて…ずっとスタッフルームの隅に置いてたんだ」
「…」
「あ!中はみてないからね。でも、寂しくなるね」
店員さんからバッグを受け取って家へ帰った。
開けられない。
開けたらきっとミィちゃんの匂いがするから。
夏が終わって、秋が来て、もうすぐ冬になる。
ミィちゃんのバッグはミィちゃんの匂いを閉じ込めたまま、部屋の片隅に置いてある。
コンビニへは行かなくなった。もうご飯を買う必要もなくなったから。
通信制高校は大学進学を見据えて、小山先生と話し合って決めた。
たくさん勉強した。何も考えないように。何も感じないように。
ある日、ミィちゃんの夢をみた。私は高校生になっていた。
コンビニへ行くとミィちゃんがあの日の姿でおにぎりを頬張っていた。
店員さんの声、店内BGMは聞こえるのに、ミィちゃんの声だけが聞こえない。
笑顔で何か話している。聞き取れない。私は…ミィちゃんの声を忘れていく…。
「嫌だ!」
夢と現実の狭間で、声を出して飛び起きた。
向き合わなければいけない。私はミィちゃんを忘れたくない。
小さなボストンバッグを手繰り寄せて、ゆっくりファスナーをあける。
ミィちゃんの匂いがする。記憶と感情がなだれ込む。
B5サイズのスケッチブック。色鉛筆やクレヨン、鉛筆に消しゴム。
ゆっくり開くと、あのイートインコーナーからみえる景色が描かれていた。
いつもの店員さんの似顔絵、いつものおにぎり、それから一緒に食べたケーキ。
それから、あの部屋でみた本が数冊と、幼少期に作ったであろう折り紙の作品。
おばあちゃんのものと思える洋服。これはおばあちゃんの写真かな?
残りは1冊の日記帳と、1冊のアルバム。




