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ひと夏の透明  作者: ここやまいぬこ


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10/16

172800秒

残り少ない時間、ミィちゃんとしたいことが思いつかない。

したいことはずっと先の未来にしかない。

クリスマス、初詣、バレンタイン…。


私にできること。笑顔でいること。

ミィちゃんが喜んでくれるように、精一杯笑うこと。

鏡をみて口角を人差し指で持ち上げる。

反射みたいに涙がこぼれそうになってしまう。


いてもたってもいられず、家を飛び出した。

ミィちゃんの家に向かう。

夕方、この時間、ミィちゃんは何をしているんだろう。

あの家でおばあちゃんの服を取り込めず、ただ眺めているんだろうか。

それとも取り込んで、また洗濯して干してる?


おぼろげな記憶を頼りにミィちゃんの家を探した。

ミィちゃんの家の前には見知らぬ男の人と女の人が立っている。

誰だろう?おばあちゃんの親族?


「あの、こんにちは」


男の人と女の人は驚いたように顔を見合わせた。


「ここの家の女の子に会いに来たの?」

「え?」

「あ、私たち児童相談所の者です」

「…」

「守秘義務があるから詳しくは言えないんだけど…女の子の居場所を知ってる?」


なんとなく嫌な予感がする。


「知らないです。ここのおばあさんと知り合いなんです」

「うーん…」

「おばあさんはね…最近事故で亡くなったんだよ」

2人は何やらひそひそ聞こえない声で会話をはじめた。


「あの、その子はそのうち帰ってくるんじゃないんですか?」

「…どうかな。ここ最近ずっといないんだよ」

「え?」


「先に佐々木さんのところにいって、あとで来ますか?」

「あーそうしましょうか」

そう言って2人は近くに停めてあった車に乗り込んで去っていった。



いつからだろう。いつからミィちゃんはこの家に帰っていないんだろう。

私はミィちゃんが何時からコンビニにいるのか知らない。

いつも私より先にきていたから、疑問に感じたこともなかった。

あの小さなバッグの中には、もしかしたら着替えやお金が入っていたのかも。

蝉が転生したのは嘘で、14日目にあの人たちに保護されちゃうから、

どこか遠くへ逃げるつもりだったのかもしれない。

ミィちゃんがミィちゃんとして生きるために。


色々なところを探したけど、ミィちゃんには会えなかった。

コンビニにも行った。いつもの店員さん品出ししている。


「お、今日は早いね」

「いつもの女の子、来ていないですか?」

「うーん…お昼ごろからくることもあるけど今日はいないよ」

「あの、ずっとそんなに長い時間あそこで座ってるんですか?」


店員さんは声をひそめて教えてくれた。

「あの子の腕、傷あるでしょ?僕の娘も一時期自傷行為をしていてね…」


私はそんなこと、気付いてさえいなかった。


「他人事には思えなくて」

「また、夜に来ます。必ず来るって女の子が来たら伝えてください」


不完全燃焼のまま、家に戻るしかなかった。

もしミィちゃんがどこかに逃げるつもりなら、それは絶望ではなく希望だ。

何年先でも、何十年先でも、私がここにいる限り会いに来てくれるかもしれない。


夜になるのが待ち遠しかった。


靴を履いて、もうあまり必要としなくなったお金をにぎりしめて、コンビニまで走る。


ミィちゃんは店内にいた。おにぎりは食べていない。

不安そうな顔で、こちらをみている。


「もう会えなくなるかと思った」

ミィちゃんのもとに駆け寄ってハグをした。

チラッと横目に左腕の内側をみる。

確かに、白くなった傷跡が数本刻まれていた。


昼間のことも、腕の傷のことも、私は何も言わなかった。


「ミィちゃんって何歳なの?」

「知らない。1度おばあちゃんにきいたことがあるの」

「知らないって言われたの?」

「ミィが16歳になったら教えるって。でも教えてもらう前にいなくなっちゃった」

「誕生日は?」

「さあ?」

「ケーキ食べないの?」

「食べたことない」


私はゆっくり席を立って、生クリームの小さなケーキを買った。

「スプーン2つください」

ロウソクもない、おめでとうもないけど、

最後に一緒に食べるものはとびっきり美味しいものがいい。


「チョコレイトは入ってないよ」

ミィちゃんの顔がパァッと明るくなる。

小さな小さな女の子みたいに。


「カメラの回数、残しておけばよかった」

「残念。ミィがもう現像に出しました!」

「え?いつできるの?」

「明日だよ。また持ってくるね」


ちゃんと、明日も会えるんだね。


「写真に残らなくても大丈夫。ミィの脳に焼き付けておくから」


ミィちゃんは明らかに半分以上食べた。

はんぶんこねって言ったのに。

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