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ねこねこあるある ネコとの暮らし

ねこのぷーちゃん 初めてペットホテルにお泊りするの巻

作者: 池畑瑠七

 1年前からプランを立てて準備を進めていた次男夫婦の挙式&披露宴。いよいよ本番まで残り1カ月に迫った頃、一つの決断を迫られていた。

 お留守番になるぷーちゃんをどうするか、だ。 おめでたい話の中に於いて今回ばあちゃんの状態がどうなっているか、と並んで我が家的最大の懸案事項だった。


 頑張れば日帰りできる会場ではあるんだけど、車で片道2時間かかる所だ。家族総出で、朝から夜遅くまでかなりの長時間家を空けることになる。

 不在中もしも何かあってもすぐに帰宅は当然、出来ない。エアコンかけっぱでトイレを2ヵ所、ご飯も自動給餌器、確かに出来なくはないかもしれない。しかし、この夏の酷暑や不安定な気象状況・地震などで停電とか不測の事態が起きたらどうする…?


 実際、先日の大雨の時、近くのゴミ処理施設が落雷で火災、稼働停止になったうえ、周辺地域でも停電がおきた。9月の声を聞くとて猛暑は収まる気配なく、台風やゲリラ豪雨頻発の時期にぷーちゃんひとり長時間のお留守番させるのは、リスク高すぎる気がする。

 とはいえただでさえ怖がり人見知り病院嫌いのぷーちゃん、おうちが一番は当然も当然。全く初めてのペットホテルとかで丸一日一晩を、耐えられるのか…?


 先代の王子が元気だったころ。こんな時に頼るのはいつも一人暮らしの実母だった。

 青少年活動のキャンプや旅行で外泊が頻繁にあったものの、なんせ家人は単身赴任中、同居義父母はネコ嫌いだ 笑。

 クルマで10分、古い一軒家でひとり静かに暮らす大のネコ好きな実母に猫を預かってもらうのはWINWINでしかなく、選択肢は常にひとつ、だった。


 しかーし。今般においては実母は既に他界、ぷーちゃんの世話を頼める他の身内や知人は全て列席者だ。てなわけで今回初めて、掛かり付け動物病院のホテル預かりサービスを利用することを決めたのだった。


 けれども、実際予約を取ってから当日までの1カ月間、少し秋めいてきて気温が落ち着いてくると「やっぱおうちで留守番の方がいいかな…」と揺れた。

 だって。ぷーちゃんにしてみたら初めてのお泊り体験は青天の霹靂、恐怖以外の何物でもないに違いないのが、わかりすぎるくらいわかりきっているのだもの。


 いつもの病院には違いないけど、通院の1-2時間のガマンでおうちに帰れるってのがデフォルトの認識であるのに、なぜなの今日は待てど暮らせど、だーれもお迎えに来てくれない…。

 訳も分からずに連れて来られた挙句置き去り状態。ここで何されるのかと不安で怯え切ったまま、ひたすら「助けに来てくれる」のを待つぷーちゃんの心情を想像したらもうやばい。切なくて切なくて胸が痛んで、いたたまれない想いになってくる…。


 こういう状態って人間に例えるならば、UFOに連れ去られたと同じようなもんじゃないか?っていつも思う。突然住み慣れたおうちから連れ出され、知らない場所知らないヒトだらけの中に放り込まれ。自由奪われ言葉通じず、何が起こるのかいつまで続くかも全くわからない。

 もちろん、培ってきた家族との信頼関係や病院での体験の記憶はおおもとにあるはずだから、ぷーちゃん自身、人間からよほどの危害が加えられるとは想像はしてないのかもしれないが。


 とはいっても、ほんのちょっと彼の置かれた状況を我が身に置き換えてみれば、その恐怖や不安感って決して小さくないものがあるだろうことはもう全然、想像に難くない。

  そして刻む一秒一秒、大好きな家族が助け出しに来てくれるのをじっと待ってるのだから。どんなに怖く寂しく心細く、長い一日だろうか。

 ああだめだ、もう終わったのにこんなこと書いてると又、彼の気持ちに共鳴共振が甦ってまた辛くなってくる……。


 ただそれをおしても、今回だけは預かって頂かねばならない。ぷーちゃんの身の安全が第一だ。

 みんなで頑張ってその時間を終えたら、おうちに戻り平穏な生活に戻れるのだ、よって今はお願いすると決めた以上、こころを鬼にして…いや心を無にして、臨むしかないのだ。



 そんなこんなで迎えた当日の朝。挙式は午後遅くだけど自分らの着付けや式のリハやらもあるしで、朝イチ出発必須。そして宴を終えたら帰宅は深夜になる。到底、病院の開院時間中に引き取りは出来ない。まるまる24時間のお預けをお願いするしかない。


 予備を含めて3回分のご飯とオヤツを用意、さあいよいよ時間だ。

 数日前から部屋の片隅におきっぱにして目に慣らし、すこしばかりマタタビスプレーも振りかけて万端整えておいたキャリー。

 さり気なくささっとホールドしてパッと入らせる……はずだったが。怖がらせないようにと一瞬躊躇したため、不穏な気配を察知したぷーちゃん、するりとテーブルの下へ駆け込んでしまった!

 あちゃー、初手の必勝キャッチをしくじった!


 その後はコタツの下やデスクの影、ベッドの向こうへとすたこら逃げ回る。ウーン、いま追いかけっこして遊んでるヒマはないんだー!

 予約の時間が迫り、本気モードに切り替える。

 ベッドの角で二人がかりで挟み撃ちにしてなんとか捕まえた。

 しかし予想通りというか嫌がるのを無理やり押し込む形になってしまい、出発前から彼のストレスメーターはレッドゾーンへと急上昇である。

 ゴメンねごめんねえ、ぷーちゃん!


 車で5分ほどの距離だが、ずうっと不安がってにゃーんにゃーんと鳴いているぷーちゃん。少しでも緊張を取り除くようにと、いつもオウチで聴いてる大好きなLADYを流しながら「大丈夫だからね、がんばろうね」と声掛けを繰り返す。


 院に着き受付を済ませ、預かり前の診察を受けるため待合室でしばし待機。その間もぷーちゃんは休みなくずっとにゃーにゃ―と不安を訴え続ける。緊張と怖さで体も小刻みに震え、時折お口をあけて小さな舌を覗かせて はーはー している。

 いつもの通院でも此処まで怖がってる事ってあんま、無かった気がするなあ…。

 やっぱいつもとはなんか違うっていうのが、わかるのかな…。


「大丈夫だよ、がんばろうね。」小窓から顔を見ながら声をかけキャリーごと抱く以外にできる事が無く、一層切なさと「ごめんね」の想いが募っていく…。


 待合室での長い20分。予約の時間をだいぶ過ぎ出発時間のリミットが迫りジリジリ…ようやく名前が呼ばれた。

 獣医師さんの健康チェックと聴き取りは問題なく進み、追加の爪切りもお願いした。

「それでは明朝9時のお迎えですね、お預かり致しますね。ぷーちゃん、頑張ろうね」

 ドクターの優しい声がけと笑顔に「よろしくお願いします!」祈るような気持ちで深く頭を下げ。

「ぷーちゃん 頑張ってね!明日お迎えにくるからね!」

 そうしてぷーちゃんとはキャリーごしにバイバイ、しばしのお別れである。扉の向こうに運ばれて行くキャリーから、ぷーちゃんの鳴き声がまだ微かに聞こえてきて胸が詰まる。


 とはいえ、先生方もスタッフの方々もみんな優しく行き届いてて腕は極めて確かだし、近くにこんないい病院がホテル併設で開業しててくれたことが本当にラッキーというよりほかになく。何か不測の事が起こったとしても、考え得る限りでいま間違いなくぷーちゃんにとって一番安全安心な所で預かって頂けるという事実は疑う余地もなしで、本当に有難いなという想いも、やっぱり同時に湧く。


 もう預けた以上は信頼して任せ、こちらはやるべきことに専念して無事にお迎えに来れるよう頑張るだけだ!そうして気持ちを切り替えて、会場に向かって出発した。


 その後。無事挙式と披露宴が済み、会場からまた2時間かけて深夜に帰宅。

「ただいまー」

 玄関を開けてもぷーちゃんの出迎えはない…。無事に今日の門出を皆で祝えた喜びととともに、ぷーちゃんを家族に迎えて3年半来初めての彼の居ない夜に何とも言えない寂しさ切なさも同時に打ち寄せてくる。

 我々も寂しいが、「どうしてどうしてお迎えに来てくれないの…まだかな…こわいよ、さみしいよ…僕どうなっちゃうの…」と一日千秋どころか一瞬が千秋の心地で不安な夜を過ごしているだろうぷーちゃんを思うと、また胸が潰れる想いになってしまう。


 こんなおめでたい日にいかんいかん、無事なのはわかり切ってるんだしあと数時間の辛抱だ。朝が来れば間違いなくお迎えに行ける、今考えるのはよそう。なるはやで休んで、今日の疲れを明日に残さず元気回復してあさイチ、お迎えにいってあげなくちゃ。

 寂しさ切なさにパタンと蓋をして、とっとと風呂を済ませ就寝。



 翌朝は清々しい空気に眩しい青空、久しぶりの爽やかな秋晴れだ。

 折角だからと皆で迎えに行くことに。開院時間ぴったりに駐車場に到着して受付。すぐに逢えるのかと思ったら、引き取り受付がなされてから退出作業をするようで、少し待たされる。

 待つこと15分。名前が呼ばれ立ち上がると、診察室の奥のほうからスタッフの方がキャリーに入ったぷーちゃんを連れて現れた。


「ぷーちゃん!おはよう、がんばったね!!」思わずそう声が出た。

 それを聴いて、キャリーの中でぷーちゃんが鳴きはじめた。「にゃーん!」

「ママだー!」って、聴こえた気がした 泣。


「初めてのお泊りですよね、ぷーちゃんとっても頑張りました。緊張のせいかお預かりしたご飯は殆ど食べてくれなかったんですけど、おやつのチュールはね、お腹空いてたんですね全部食べてくれました。食欲はちゃんとあったのでね、大丈夫です。ただお通じはなかったので、おうちに戻ったら様子を見てあげてくださいね。」

 丸一日ぶりに抱いたぷーちゃんの体、キャリー越しでもあったかさがずっしりと両腕に伝わってくる。嬉しくてうるうるしてくる、涙出そう。


 受け取った未使用のご飯をカバンに突っ込んで手続きを済ませ、車に乗り込む。

 来た時と違って帰り道は全く鳴かず、「ぷーちゃんおかえり、ぷーちゃんがんばったね!」と語り掛ける家族の話し声にじっと耳を澄ませているようだった。

「帰れるの……?」「どこにいくの……?」あまりにショックが大きい一晩だったから、まだおうちに帰れるのか半信半疑なのかもしれない。(;'∀')


 玄関を開け内階段をトントンと上る。その音と自宅の匂いに、キャリーの中のぷーちゃんが急にわさわさと動き出した。

「かえってきたよー!おうちだよぷーちゃん!」

 床に置いたキャリーのふたを開けると、ぴょんと自分から飛び出したぷーちゃん。その勢いで喜び勇んで駆けだすかと思いきや。

「ここはどこ…?」

 慎重に匂いを嗅ぎながら、へっぴり腰でソロソロと偵察をし始めた。あっちの部屋、こっちの部屋、キッチンに洗面所、お気に入りのベッドやソファ、そしてトイレ…。


 後ろ姿を見ると足元がちょっとおぼつかず、ふらつく様子さえある。ごはんも喉を通らない緊張状態が24時間も続いた疲れと空腹、そして安堵もありつつもまだそこから解放されたってことを完全には信じきれないで、微かに尾を引く緊張と戸惑い…そんな風だった。


 お腹空いてるのは間違いないはずだからと、出掛けに用意していったご飯皿にいつものフード。見回りの最中にそれを見つけたぷーちゃん、突然偵察を中断し、すごい勢いでがつがつバリバリと食べ始めた。

 外泊前にはカリカリにちょっと飽きが来てて、お皿に盛ってあってもシーバ以外は綺麗に残してたのに(笑)

「これこれ!!これでいいです、いやこれがいいです最高です!!」

 無心でがっつく頭の上に、盛大な吹き出しで台詞が飛び出しているかのようだった。


 ぷーちゃんのそんな様子をホッと嬉しく眺めながら、あれ?この一連の行動、どっかで見た気がするな……既視感が湧いてきた。

 ええと…ああそうだ!!ぷーちゃんが我が家にやって来て初めてのご飯を食べた時だ!

 ケージの中で目を真ん丸にして、怯えながらもショップで食べてたのと同じ「いつものごはん」を出したら凄い勢いでがつがつ食べだした、あのとき。

 ショップではもう一匹の仲間がいてご飯をいっしょにたべていたからか、お皿から勢いで飛び出して足元に散らばったカリカリも落ちるたびに慌てて一個一個拾っては必死になって食べていた。まるで ひとつぶも食い逃すまい、とするかの如く。


  でも今は仲間の子と離れて、自分だけだ。ご飯を仲間に取られちゃう心配なんて、無いのに。

 …その様子がなんかほんとにいじらしくて、お友達と突然ひき離され知らない場所に連れて来られ、怖さも寂しさも一杯だろうに…って酷く胸が痛んで、どうしようもなかった。

 絶対絶対、絶対幸せにするよ!仲良くしようね一緒にシヤワセになろうね!って一層強くつよく思った瞬間だった。


 そしてへっぴり腰で家じゅうをそろりそろりと偵察する様子は。彼を迎えて3日後くらいにケージのある部屋から初めて出て、他のエリアへと足を踏み入れた時とおなじ。

 小ちゃかった彼が初めての大冒険よろしく、おっかなびっくり未開の地を探検する姿と、そっくり同じ行動だった。それほどに、今回のお泊りは彼にとって衝撃の大きな体験だったんだ。


 食べ終えるとぷーちゃんは少しホッとしたような様子でリビングに戻ってきて、即座に部屋の真ん中でごろん!と横になった。ヘソ天スタイルじゃなくて四肢もお腹も横向きに床へ投げ出し、べたっと脱力しきって、いかにも「ああ、疲れたあ‥‥」という風情。

 それはおうちに戻れてうれしい、以前に、とにもかくにも先の見えないMaxな緊張が解けて力が抜けた、という感じだった。



 その日はその後もばーちゃんの面会やら買い出しやら事後処理やらで皆出たり入ったり一日中わさわさしていたけれど、それを見てもぷーちゃんはもう、どこ吹く風。

「私はここでいいです、ここがいいです、留守番上等!もうよろこんで!」てな感じで、青天の霹靂で奪われた日常が、どうやら無事戻ったんだという安堵と陽だまりの寛ぎ時間を、全力で満喫していた。


 昼のおやつ後には無事にお通じも戻った。歩き回る足取りはまだ少し慎重さがあったけど、じょじょに尻尾も背中も頭も高くなっていった。

 そしてのいつもの夕ご飯の後、ゆっくりした足取りでシッポをピン!と立てたままリビングにやってきたぷーちゃん。今度は、コロッと床に転がったあと、ひと拍おいてからくるん!と体をよじってとうとうヘソ天の体制に!

 やった!!

 でた、へそてーん!!

 これだよ これ!!ぷーちゃんはやっぱ、こうじゃなくっちゃ♡

 漸く彼に、当たり前の日常が戻った瞬間だった。


 長い2日間だったね…本当にごめんね、頑張ってくれて本当に本当に、ありがとうね!!


 此度の挙式披露宴に纏わるエピソードや苦労話は数々あったけど、今般一番の功労者は誰が何といおうが間違いなくぷーちゃんである!!

 ぷーちゃんが、一等賞!!


 ということで、翌日のおやつタイムには大好物のチュールをいつもの倍量 丸々1本!

 うやうやしく贈呈申し上げたのであった。

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― 新着の感想 ―
ぷーちゃんが無事で何よりです。 実は私も9月の初旬、一日不在になる日があり、飼いウサギを動物病院内ホテルに預けました。あまりに暑い日が続いていたので、不測の事態が心配で。 カリカリ食べたぷーちゃん、そ…
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