表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

友情は拾った

作者: 六時六郎


 外を歩いていたら友情が落ちていた。

 拾って手にとってみるとなんとも言いがたい感触がした。最初は温かいと思ったが握りなおすと冷たい気もするし、柔らかいと思えば無機質に感じる時もある。

 捨てようかと考えたけれどもったいないのでとりあえずポケットに入れた。

 休日にふと出かけた散歩。特に予定もなくぶらぶら歩いていると、ファミレスが見えてきた。気付いたらお腹が減っている。まだ午前中だけれど、朝食は抜いていたから早めの昼食にするのも悪くない。

 一人で入店することに若干の抵抗はあったけれど、ポケットに入れておいた友情に手を触れると、何だか自分も入店して差し支えない気がした。

 テーブルに置いてあるタッチパネルで注文を済ませると、手持ち無沙汰になったのでポケットに手を入れてそこの友情に触れてみた。相変わらず良く分からない感触がする。手が蒸れてきたのでポケットから友情を取り出してテーブルに置く。暇だから友情を撫でたりつついたりして遊んでいると、店員が注文を運んできた。

 私が注文したのはピザとドリンクバー。一人でピザを食べるのもどうかと思うけれど、たまにはいいだろう、安いし。

 チェーン店特有の安っぽいピザは、安っぽいけれど生地はカリカリでチーズはとろとろ。甘いコーンとチーズに酸味あるトマトペーストが相性良く混ざり合い、格別の味がした。

 やはりお腹が減っていたのだろう。10分足らずでパクパクと食べきってしまった。チーズでべとべとする手を、テーブルに置いた友情でふき取り、席を立った。ドリンクバーへ向かいコーヒー片手に席へ戻る。脂っこいものを食べた後に飲むブラックコーヒーは、体に深く染み渡るのだ。しばし満足感を得たが、よくよく考えたらピザと一緒にコーラでもとってきて一緒に飲み食いすれば最高だったのにな、と後悔した。もうピザは食べてしまった。後悔先に立たず。ピザが来たことに興奮して即座に食べ始めてしまった自分の卑しさにうんざりする。私はちょっとすねた気持ちでテーブルの友情をぴんっと指で弾いてみると、友情はテーブルをコロコロと転がりタッチパネルに当たってぴたっと止まった。へえ、友情は思ったより軽いのだなあと思って、今度は手の平に乗せて息をふっと吹きかけてみた。すると勢いに乗って友情は飛んでいき、窓を透き通って外へ出てしまった。

 仕方ないな、と思って会計をすませて店を出る。友情が飛んでいった方へ歩き出すと、ぽつりぽつりと雨が降ってきた。傘は持ってきていない。自宅まで雨に打たれて帰るしかないのだろうか。途方に暮れていると、歩道の植栽に友情が隠れていたので、それをつまみ上げて手に握る。友情は傘へと変化した。

 これはありがたい。傘となった友情をさして歩き始める。雨脚は段々と強くなっていくが、傘となった友情のおかげで体は濡れずにすんだ。

 今日の天気は晴れのはずであった。しかし現在の天気は雨。いや、すでに大雨といっていい。見上げると、透明傘の友情を通してみる空の色はどこまでも暗く、また雷の音も聞こえてきた。

 様子がおかしい。私は胸騒ぎがして駆け出した。傘となった友情を持ちながら走るのは煩わしかったので、友情はワイヤレスイヤホンに変えて、耳に付けた。スマートホンと繋いで好きな音楽をかけると、ワイヤレスイヤホンと化した友情からは耳当たりのいい音が聞こえてきて、私を楽しませてくれた。

 雨の中しばらく走ると、大きな公園へたどり着いた。その頃には雨が上がっていたが、空は暗いままで、辺りも闇に包まれている。

 私はワイヤレスイヤホンとなった友情をタオルに変えて雨に濡れた体を拭いていると、目の前に巨大な黒い影が現れた。あまりにも大きすぎて、私からはその影の下半身部分が見えているだけで、そこから続くであろう胴体や上半身は暗黒の空に隠れて、見上げても到底全体像は把握できない。

 しかしそれは明らかに敵であった。黒い影の正体は私には分からなかったが、それは私に対して敵意を抱いており、邪悪な瘴気がその影から迸っていた。

 影がその巨大な足を持ち上げた。こちらを踏み潰そうとしているらしい。

 このままではいけない。私は友情を手に取るとそれは剣へと変化した。

 頭上に黒い影の足の裏が迫る。このまま踏み潰されてなるものか。俺は剣と化した友情を思い切り振り抜いた。

 振りぬいた友情は黒い影の足の裏と衝突した。その瞬間、影は足の裏から天高く続く胴体までばさりと切り裂かれ、影そのものが消滅した。

 すると辺りを覆っていた闇は霧散し、空を覆う暗雲も消えうせ、再び太陽が姿をあらわした。

 世界に光が戻った。

 俺はほっと息をつき、これでとりあえず家に帰れると思った。

 これも友情のおかげだ。

 感謝するつもりで、右手に握る剣を見た。

 それは剣と化した友情のはずであった。

 しかし今、それは本質的に友情ではなくなっていた。

 それは友情という名の自負心であった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ