第8話 傭兵団VS盗賊団 ③
戦場は大混乱だ、敵味方が入り乱れていて正に乱戦そのものといった様相。
しかもそこへ来て、大型魔獣のキリングパンサーとビーストテイマーの登場。
傭兵団も盗賊団も、一瞬動きを止め、新たな脅威の登場に戦慄を覚える。
現れた大男は盗賊団の頭目らしい、テックさんが警戒している。
厄介な事になってきた様だ、ボスのご登場に身が引き締まる。まったく。
その頭目が、周りの盗賊たちに向かって大声で荒げた。
「おめえ等! 何ちんたらやってやがる! それでも黒牙の一員か!!」
盗賊団の頭目は、手に革の鞭を装備している。
盗賊たちに向かって叱責し、鞭をバシンっとしならせて地面に叩きつける。
うむ、恐怖政治をやってるようだ、体育会系よりも度を越している。
「す、すいません、頭。」
「こいつ等、中々手強くて。」
盗賊たちがビビッている、余程怖い頭目のようだ。
まあ、盗賊団の頭目なんてやってるから、強いのは当たり前だろう。
状況が変わった、盗賊団の頭目はビーストテイマーだ。当然その隣に魔獣付き。
ビーストテイマーは魔獣を使役する事が出来る、一緒に登場した大型魔獣のキリングパンサーを手懐けているという事か。
数の上では多い盗賊団だったが、傭兵団「鉄の牙」の必死の抵抗により、護衛対象をしっかりと守っている。
だが、ここからはそう上手くいかなさそうだ。
敵の強力な親玉が出て来た以上、拮抗していた戦力は一気に崩れる可能性がある。
傭兵たちに悲壮感が漂っている、あんな大型魔獣を相手にしなくてはならないのかと。
対モンスター戦のエキスパート、冒険者たちも震えあがっている。
おそらく、この辺ではキリングパンサーは居ないと思われているのだろう。
だが現れてしまった、もう後戻りは出来ないだろう。覚悟を決める時かもな。
とにかく、あの大型魔獣が厄介だ。
キリングパンサーは強い、並のモンスターの比じゃない。
鋭い爪や牙での攻撃に加え、身動きも軽い。動物型の魔獣は手強い。
強敵を前に、身体の震えが止まらない。ガクブルだ。落ち着かない。
「武者震いじゃないな、マジでおっかないぞ。」
すぐそこに死が転がっている、俺もああなるのかと想像したら怖くなってきた。
盗賊たちはみな一様に頭目を見て、拳を上げて歓喜していた。
「やったぜ! 頭だ!」
「これでもう怖いモン無しだぜ!」
「へっへっへ、てめーら! 覚悟しろよ!」
反対に、傭兵たちは意気消沈している。無理も無い。
「ど、どうする?」
「逃げるか?」
「いや、だが、あの頭目は高額賞金首だった筈だ。」
「こっちにはテックさんが居る、まだ戦えるぜ。」
「だけどよ、魔獣は危険すぎるぜ。」
傭兵達は互いに相談し、その場を動こうとはしない。
このままじゃ不味いな、戦線が一気に総崩れを起こすかもしれない。
折角ここまで来たのに、この事で味方が全滅じゃ話にならない。
ふーむ、しゃあない。俺のスキル「メーカー」を使ってみるか。
俺のスキル「メーカー」が、ちゃんと敵側に通用するか確かめたかったし。
強敵相手に通用するかどうか分からんが、丁度良い相手だ。よし! 使おう。
ビーストテイマーの頭目に意識を集中して、スキルを発動させてみる。
「メーカー、起動。」
俺が言うのとほぼ同時に、頭目の身体が一瞬だけ光り、また元通りになる。
すると、頭目のステータスが俺の目の前に表示され、スキルの欄に干渉出来る事が分かる。
「なるほど、こういう風に使うのか。」
やり方は分かった、スキルの使い方も、そしてやはり「メーカー」は俺の考えていた以上の性能のようだ。
ゲーム「ブレイブエムブレム」の主人公が使う「メーカー」のそれとは違う。
ゲームでは敵に対してスキルは発動しないのが普通、だが俺の「メーカー」は敵側にも干渉出来た。
つまり、俺のスキル「メーカー」は、主人公のそれの上位互換スキルという事。
「これは、この事は絶対に秘密にしなくては。」
じゃないと、メンドクサイ事になるに決まっている。俺は主人公とは関わらない。
早速、頭目のスキル「ビーストテイム」を「削除」してみた、すると。
キリングパンサーに動きがあった、魔獣は一瞬我に返った様な仕草で辺りを見回し、そして一番近い盗賊へ向けて急接近した。
そのままの勢いで、キリングパンサーは盗賊の一人に鋭い牙で噛みついた。
「ギャアアアアアア………。」
突然叫び声を上げ、盗賊が一人その場で絶命した。
「な!? なんだと!?」
突然魔獣が言う事を聞かなくなった事に対して、盗賊の頭目は焦りを露わにしている。
よしよし、程よく混乱しているご様子。まあ当然だな。
キリングパンサーは次々と近くの盗賊たちを襲い、嚙み殺して回っていた。
「おい!? どうしたパンサー!? 勝手に動くな!?」
「グガアアッ!!」
焦ってる焦ってる、よし、良いぞ。現場は大混乱だ。
頭目は焦り、鞭を振って魔獣を従えようと試みている。だが。
「うおっ!? なぜだパンサー!? なぜ俺を攻撃する!?」
キリングパンサーは頭目を前足の爪で引っ掻いて攻撃し、ダメージを負わせている。
「ちっ! 俺様の言う事を聞かねえのか? なぜだ? どうしてだ?」
頭目は混乱していらっしゃるが、わざわざ教えてやる必要は無いよね。
うーむ、使えるな。このスキル「メーカー」は。
これには流石に傭兵達も混乱している様子、テックさんもポカーンとしていた。
よしよし、このままやってしまいなさい。パンサーとやら。
と、思っていたら更に頭目が動いた。
「おい! 誰か奴隷のガキを連れてこい!」
「へ、へい!」
咄嗟に判断したのか、頭目は部下の盗賊に命じていた。
「ふーむ、奴隷のガキとは?」
そうこうしている間にも、キリングパンサーは盗賊を殺しまくっている。
あっという間に敵の数が減り、盗賊団は壊滅状態になっていた。
「チャンスです! 皆さん! 今のうちに撤退しますよ!」
テックさんが仲間に号令を掛けると、傭兵たちは皆戦場から距離を取り始める。
良い判断だと思う、テックさんは被害を最小限に抑える為、皆の安全を優先するようだ。護衛対象の事も考えているな。
魔獣に勝てないと見越したテックさんは、すぐさま撤退を指示したようだ。
傭兵団がそれに応え、戦場からの離脱を始めた。
だが、それを許さないと言わんばかりに、キリングパンサーは傭兵に狙いを付けた。
テックさんは咄嗟に何かを放り投げて、キリングパンサーの注意を引いていた。
「干し肉です! これで向こうへ行ってください!」
テックさんが投げた干し肉が、丁度頭目の居る方へ転がった。ナイスコントロール。
「ちっ!」
頭目は舌打ちし、盗賊に怒気を孕んだ声で叫ぶ。
「まだか!!」
「今連れて来ました!」
息を切らしながらも、盗賊が連れて来たと言って、一人の女の子を突き出す。
女の子は両手を紐で縛られていて、自由が効かないようだ。
奴隷のガキって、そう言う事かよ。まったく。
「よーしよし、まだここで俺様が死ぬ訳にはいかねえからな。」
そう言って、頭目は連れて来た女の子を突き飛ばして転がし、キリングパンサーの前に転がせた。
「そーら「ご馳走」だぞ、ゆっくり味わえ。」
女の子を囮にして、頭目はその場を逃げる様に走り始めた。
「あ………あ………。」
突き飛ばされた女の子は、恐怖に顔を歪め、声にならない声を上げた。
あの頭目、外道でクズだな。
「らしくない、まったくもってらしくない。」
言いながら、俺の身体は咄嗟に動き、駆け出していた。
自分でも驚いたが、気が付くとキリングパンサーと女の子の間に割って入り、剣を構えていた。
「まったく、損な性格だと思うよ。ホント。」