表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/14

第7話 傭兵団VS盗賊団 ②


 戦場の真っただ中を、突っ切るように駆ける。


 「頼むから俺の身体よ、動いてくれよ。」


 オッサンが駆け出したところで、誰も見向きもしない。よかった、適度に無視してくれている。


 俺の防御力は紙装甲だ、着ている服はこのトレーナーのみ。


 だから、敵にとって何の脅威にもならないと思われているらしい。


 だが運動靴のお陰か、意外とダッシュしても苦にならないし、移動速度も中々。


 俺は傭兵団の仲間じゃないから、まずはテックさんに説明しないと。


 「しまったな、スピナにテックさんの特徴とか聞いときゃ良かった。」


 ここはもう戦場だ、どこを見ても乱戦状態。


 混沌としている、実際の戦いってのはこういうモノらしい。


 人を容易に狂気に駆り立てる、恐ろしいが、それが生きるという事かもな。


 「まあ、善悪の区別くらいは付けたいところだがな。」


 自分の信じる正義に従って行動しようと決めた、スピナを助けた時のように。


 戦場を駆ける、オッサンなので身体が持たないが、そうも言ってられん。


 「頼むから俺の身体よ、持ってくれよ。」


 自分を奮い立たせ、傭兵団のリーダーっぽい人を探す。


 リーダーなら、戦場全体を見渡せるような位置取りをしているだろう。


 傭兵の味方に指示を出している人を探す。


 それは直ぐに見つけられた、あれか? メガネを掛けた優男風の出で立ち。


 岩の上に立っていて弓を装備している、傭兵仲間に指示を出しながら盗賊を射ているな。


 アーチャーか、戦場を見渡せる場所に居て、弓矢の攻撃範囲に入って来た盗賊を攻撃して戦っている。


 俺がテックさんの弓の射程に入ってしまうと、攻撃される可能性がある。


 まずは俺が敵じゃない事を知らせねばならない、今だって俺を見ながら怪訝な表情をしているし。


 だがそれを意とも返さずに、的確に盗賊を射ている。


 まだ俺が敵か味方か判断出来ないのかもしれない、不用意に俺を攻撃する様に指示していないところを見るに、まともな人物らしい。


 頭の回転が速そうだ。切れ者っぽい、メガネのせいか?


 まだ距離があるが、テックさんらしき人物に向けて大声で叫んでみた。


 「テックさん! 俺は敵じゃない! あんた等に味方するつもりだ!」


 俺の大声を聞き、テックさんがこちらを向いて目を細めていた。


 何故私の名を? と言う様な表情をしている、まあそうだろう。


 俺はテックさんに見える様に、荷馬車を指差してサムズアップしてみせた。


 すると、テックさんも応えてくれた。


 「どこの部隊の者ですか!」


 よかった、ちゃんと伝わったみたいだ。こちらを敵対者ではない事を知らせる。


 「俺は傭兵じゃないが! スピナさんを助けた者だ! 加勢するから撃たないでくれ!」


 「今は戦闘中です! 隠れていてください!」


 ふーむ、一応スピナの名前を出したからか、信用はしてくれたみたいだ。


 だが、俺が戦闘へ参加するのは拒否された、それはそうだな。


 戦場は敵味方入り乱れて乱戦になっているし、余計な面倒事は回避したいのだろう。


 だが、テックさんのところへ来るなとは言われていない。隠れていろとは言われたが。


 隠れる場所なんてどこにもない、背の高い草でも俺の腰くらいの高さだ。


 草むらの中で身を低くしていれば隠れられそうだが、直ぐに見つかりそうだ。


 ここはやはり、テックさんの居る場所へ向かい、移動しよう。


 部隊長の近くならば、比較的安全だ。絶対ではないが。


 まずは生き残る事、その為なら臆病にもなるってなもんだ。


 戦い慣れていないし、ゲームとは違うリアルでシビアな条件。


 辺りに血の匂いが漂い、戦場の恐怖を嫌と言う程肌で感じる。


 マジでおっかない、ガクブルが止まらん、だが、自分の為に進むしかない。


 意を決して、テックさんのところへ向かい、移動を開始した。


 ゆっくりとだが、確実にテックさんとの距離が近づく。


 その途中、テックさんがこちらを向き、溜息っぽい仕草をしていた。


 どうやら来ても良いらしい、歓迎はされていないだろうが。


 「そっちへ行きます!」


 「好きにしてください!」


 離れているので、大声でお互いに応答しあっているが、余計に目立ってしまった。


 当然、盗賊もこちらに意識を向け、襲い掛かろうと向かって来る。


 だが乱戦な上に戦いで疲弊しているのか、盗賊の動きは鈍い様だ。


 余裕でテックさんの元まで近づける、と思っていたが自分自身が鈍かった。


 自分では中々速く走れると思っていたが、甘かった。


 疲弊した盗賊と同じぐらいのスピード、もし盗賊が疲れていなかったらと思うとゾッとしない。


 やはり戦闘の実戦経験者を舐めない方が良さそうだ。


 そうか、こっちがオッサンだからテックさんは気を遣った訳か。


 悪い事しちゃったな、まあ隠れる場所とか無いし。いいか。


 だが、ここで事態は思わぬ方向へ向かってしまっていた。


 テックさんのところへ移動し始めてから、直ぐに事態は急変したのだ。


 「うわあああああ!?」


 「きゃあああああ!?」


 突然誰かの叫び声が聞こえたかと思ったら、人が吹っ飛ばされてきた。


 まさか、人があんなに宙を舞って吹っ飛ばされるとは!? 一体なんだ!?


 軽く10メートルは飛んできたであろう人を見ると、身体に大怪我を負っていた。


 俺の直ぐ近くに落ちて来て、息も絶え絶えといった状態だ。


 「な、何だ!? 何が起きているんだ!?」


 「危ないから下がれ! 早く!」


 「死にたくない! 死にたくない!」


 現場は混乱状態だ、被害を受けているのは傭兵たちみたいだ。


 盗賊もビックリしていたが、何故か落ち着いている。何だ?


 人が飛ばされて来た方を見ると、そこには大きな獣が涎を垂らしながら唸っていた。


 その姿を見て、俺は一瞬呼吸が止まるかと思った。


 あの大きさ、体毛の色具合、鋭くデカい牙、尖った前足の爪、間違いない。


 「あれは!? キリングパンサー! 魔獣だ! 気を付けろ!!」


 俺は大声で叫び、周りの傭兵たちに警戒するように言い放った。


 間違いない、ゲーム「ブレイブエムブレム」にも登場した大型魔獣だ。


 ヒョウの様な見た目だが、大きさが全然違う。並の大人が軽く撫でられただけで吹っ飛ばされるくらいデカい。


 デカい牙が特徴の魔獣だ。モンスターっぽいがそれとは区分が違う。


 まあ、細かい事は今はどうでもいい。今は目の前の事態にどう対処するか。


 自分はプリーストじゃない、回復魔法なんてものは使えない。


 回復薬などのポーションも持って無い、拾った剣のみ。


 目の前の怪我を負った人を治療出来ない、手当てなどのスキルは持って無い。


 傷を癒す知識も無い、見て分かる程度に大怪我を負っている程度の事ぐらい。


 やはり俺は無力なのか? いや、役割が違うのか?


 立ち尽くしていたところで、テックさんが大声で叫ぶ。


 「みんな気を付けて! 盗賊団の頭目です!」


 ここからでは見えないが、盗賊たちの向こうに誰か居るらしい。


 テックさんには見えてるみたいだ、岩の上の高い場所に居るからだろう。


 そのテックさんが敵の親玉を見つけたらしい、警戒しているのが分かる。


 「まあ、所詮寄せ集めだ、こちらの戦力が上でも苦戦するわな。」


 余裕の態度で戦場に現れたのは、禿頭の大男。


 手には鞭を持っていて、その隣に魔獣のキリングパンサーがうろついている。


 キリングパンサーは大男を攻撃しない、寧ろ従っている様に見受けられる。


 「鞭を持った大男、その隣に魔獣、まさか。」


 慌ててスキルの「鑑定」を大男に向けて使った、やはりか。


 気が付いたら、周りに聞こえる様に叫んだ。


 「気を付けろ! ヤツはビーストテイマーだ!」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ