第6話 傭兵団VS盗賊団 ①
目の前に佇んでいる女の子は、スピナと名乗った。
可愛い娘だな、若い、そして発育が良い。オッサンの目線が泳ぐよ。
いかんいかん、鼻の下が伸びる。こっちの世界の女性はみんなこうなのか?
ゲーム「ブレイブエムブレム」に登場する女性キャラクターも、大概美人だったり可愛かったり、レベルの高い娘ばかりだった。
恰幅の良い女将さんタイプも居るが、そういうのは基本宿屋とかのキャラだ。
まあ、人気があるゲームって、大体可愛い娘が登場するよね。
あれこれと考えていると、スピナが返事を返してきた。
「通りすがりのオジサマが、どうして私を助けに?」
おっふう、オジサマと来たか。中々言われない言葉だよね。
特に若い娘からは。言われてみたい、言われてしまった。どうしよう。
と、とにかくスピナは理由を聞いている。
理由? 理由か、まあ女の子がひどい目に遭っているのを見過ごせないだけだが。
コホンと咳払いをば、その後カッコつけて言ってみた。親指を自分の胸に当て。
「俺は男だからね、男ってのは女を守る義務があると思っているんだよ。」
こんな臭いセリフ、日本じゃ絶対に言わないが。ここは異世界だ。
するとスピナは、ポ~っとした様子でこちらを見つめていた。
そして、顔を赤らめながらも、恥ずかしそうにしている。
「い、今時そんな事を平気で言う人を初めて見た気がします。」
「そうなのかい?」
ふーむ、こっちの世界でも歯の浮く様なセリフはそれなりに、って事か。
「はい、女の子だって戦えますから。」
スピナは自分の豊満な胸をドンと軽く叩き、自信満々に答えた。
まあ、一人に付き一つスキルを持ってる世界だし、剣を持って振り回してる女の子が居たとしても不思議じゃないだろうから、そうだろう。
技量はともかくとして。
剣道や柔道の国際試合をテレビで観てると、この人は強いとか、この人の動きは機敏だなとか、色々分かるようになるモノだからね。
伊達に五十まで生きてない、人生経験はそれなりだ。独身だけど。
「私を助けたという事は、味方で良いんですよね。えーっと、貴方は?」
「ああ、申し遅れました、俺の名はタナカと申します。」
名前を聞かれたので、名を名乗り、一礼する。礼儀は大切である。
大人なので礼儀をわきまえるが、信用出来そうな他者に礼を執る事で、相手に好印象を与えられるからね。
信用出来そうにない奴は、適当で良い。だって信用出来ないから。
「タナカさん、貴方は私達の傭兵仲間の方ですか? 私、まだ新人で。」
傭兵? そうか、馬車の護衛をしているのは傭兵団って事か。
「いや、俺はただの通りすがりの人だよ。」
「………普通、通りすがりの人は戦いに参加しません。どこかに隠れてやり過ごします。」
うーむ、ここでも怪しさが爆発してしまったか。それにしてもそうか、傭兵団か。
いや~傭兵団を味方して良かった、襲ってる方は盗賊団か何かって事だよな。
自分の信じた正義に従って行動して、正解だったかもな。
転移初日から盗賊の味方なんてしたら、犯罪者になるかもしれなかった訳か。
ナイス判断だ、俺。
勇気? そういうもんじゃないよ、ガクブルしてたし。
ふう~、やれやれ。女の子を助けられて良かった。気合の入り方が違うな。
俺も男って事だよ。
「とにかく、今の状況を説明します、我々は商隊の護衛をして………。」
スピナの話を纏めると、こう言う事だ。
王都から食料を届けに、町までの馬車の護衛依頼の仕事を引き受けたのが、傭兵団「鉄の牙」という事。
スピナはその鉄の牙のメンバーで、まだ新入りらしい。
今盗賊団と戦っているのは、鉄の牙の第三部隊「テック隊」という事。
鉄の牙のサブリーダー、テックさんがこの隊の部隊長で、襲って来た盗賊団に対処している。
王都から町までの最初の依頼を達成したが、その場で他の仕事を引き受けて別の町まで荷馬車の護衛するというもの。
町まであと少しという所で、待ち伏せされ襲撃されたらしい。
スピナはまだ実戦経験が不足しているので、馬車の護衛に専念する事になったそうな。
で、二人の盗賊に挟まれてピンチだったところを、俺に助けられたと。
スピナはこのまま荷馬車の護衛に専念するそうだが、俺はこのまま戦いの様子を見て、テック隊に加勢するか、このままスピナと一緒に馬車を護衛するかと言った次第。
と、言う事らしい。
「タナカさんはどうしますか?」
「うーん、そうだな。」
荷馬車の陰からこっそり戦場を見てみたが、今は小康状態と言った感じだな。
お互いに決定打に欠けるという事だろう、なるべく被害を出さない戦い方をしているのは、流石の経験者といったところか。
このまま静観しても良いが、折角ならテックという人に加勢するのも悪くはない。
この世界に来てまだ半日、知っているゲーム世界とはいえ、やはり不安はある。
ここでテック氏の味方をしておく事で、後々自分に有利に事が運ぶ可能性を考慮に入れるべきだ。
傭兵団との繋がりを作るのも悪くは無い、加勢すれば少なくとも印象は良く思われるだろう。
距離を制する者、戦いを制する。これは俺のゲーマーとしての持論だ。
そして、情報を制する者、全てを制する。行き詰った時、攻略本を見ながらプレイしてたのを覚えている。
勿論、攻略本は熟読済みだ。まだ頭に入っている。
攻略本は分厚く、高価だったので、小遣い一か月分じゃ足りなかったのも覚えている。
何もかもみな懐かしい。それはともかく、この世界がゲームなら、これから何が起きて、どうなるのかも知っている。
とにかく情報だ。
今はどの辺りの時系列なのかとか、事件や出来事など、まだ何も知らない。
とにかく情報が欲しい、傭兵団の部隊長クラスなら、何か知っているかもな。
まあでも、加勢して戦力になるのか? という問題はあるが。
戦いは消耗する、思った以上に。そりゃそうだ、身体全身を使っているんだから。
このまま何もせず、大人しくしている方が、まあ安全ではあるけど。
よしっ! 決めた。行動しよう、何もしなかったら何も始まらない。
「スピナはここに居て、俺はテックさん達の様子を見に行ってくるよ。」
「え、良いんですか? タナカさんは私達鉄の牙とは全く関係が無いじゃないですか。」
スピナは良い子だ、俺の事を心配してくれている。だが。
「このまま俺がここを離れて町へ行っても、盗賊の生き残りに後ろからバッサリ、なんて事もあるかもしれないし。」
「確かに、盗賊団の正確な数は分かっていませんけど。」
情報を得る為の行動、結局自分の為なのだ。
「だから、俺はこのままテックさんの支援に向かおうと思うんだよ。」
「それは、ありがたい話です。こちらとしても戦力は多い方が良いですから。」
「じゃあ決まりだ。」
よし! 覚悟は決まった、やるべき事は、戦場でテックさんを探して支援。
可能なら、盗賊団の情報も得る事。あとは、自分の身の安全。
こちらから戦場に向かう訳だが、決して無理はしない。
さっきの男達は、こちらの存在に気付いて無かったし、油断してくれたから勝てた。
次もそうなるとは限らん、慎重に行動するに越した事はない。
「よし、じゃあ行くぞ。」
「お気を付けて、タナカさん。」
スピナの言葉を聞き、俺は気を引き締めて行動に移る。
馬車の陰からこっそりとのぞき見、見つからない様に観察した。
馬車から少し離れたところで、傭兵団と盗賊団が争っている。
「スピナと同じ様な革鎧を着ている方が傭兵団だな、で、全く統率が執れていない方が盗賊団と。」
なんて分かりやすく動いているんだ、こっちが混乱しなくても良いのは助かる。
「年甲斐も無いが、そんじゃまあ、おっぱじめますか!」