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第5話 タナカの勇気



 森の中は薄暗い、陽の光が届かないくらいには深い森のようだ。


 森の木々を避けながら少しずつ進んでいると、うっすらと光が見えて来た。


 森の出口が近いのか? と思い、つい急ぎ足になってしまう。


 いかんいかん、俺はオッサンで膝が悪いのだ。膝に爆弾を抱えている様なモノ。


 はやる気持ちを押さえ、ゆっくりと慎重に歩く。


 小動物などの気配はある、幸いなことに魔物などとの遭遇は無かった。


 もしかしたらと思っていたが、この森はモンスター等が徘徊していないのかも。


 普通、異世界とかRPGでは、こういった森では魔物の類が跋扈(ばっこ)していそうなモノだが。


 特に何のアクシデントも無く、順調に事が運んでいる感じだ。


 まあ、歩き疲れた。というのはあるが、それは大して問題にはならない。


 もしかして、イベント的な場合なのかもしれないが。断言は出来ない。


 とにかく進む。


 しばらく歩いていくと、前方にはっきりと太陽の光が差し込んで来ているのが分かる。


 「やった、ようやく開けた場所か?」


 森の終わりが見えて来た、木々の間から遠くの方で平原の様な景色が見えて来ている。


 森を抜けられると分かると、途端に元気が沸いて来る。


 進んで行くにつれて、木々の間隔が広くなってきている。


 鼻孔をくすぐる風の匂いは、明らかに草原の草の匂いも混じっている。


 そうして、歩く事に疲れてきた頃合いを見計らうように、森の終点まで来た。


 太陽の光を浴び、身体をほぐすように伸びをして空を仰ぎ見る。


 「ふう~、やっとこさ森を抜けたよ。」


 漂っている雲が浮かび、風が草原の香りを運んできている。


 そして聞こえる、剣戟のような音。


 「ん? 剣戟? おいおい物騒だな。」


 何かやってんのかなと思ったら、何やら騒がしいですよ? 何ですかな?


 森を抜けたところに街道みたいなのがある、やったと思った矢先に鉄が擦れる音。


 叫び声や怒号、トキの声などが聞こえてる。


 「人の声だ!」


 ちょっと様子を見てこようかと思い、街道を音のする方へ移動してみる。


 街道を発見できた事で、まずは一安心。


 これをどちらかに辿って行けば、町か村へ行けるだろう。


 うきうき気分で移動し、様子を見に行ったが、直ぐに考えが切り替わる。


 「マジか………。」


 人の死体を発見した、刀傷のような痕がある。え!? この人切られたの?


 物騒な事この上ない、この音はやはり戦いの音だったようだ。


 「参ったなあ、俺は平和なところから来たばかりなんだよ。いきなりだろこれ。」


 イベントにしたってホットスタートっぽいな、嫌な予感しかしない。


 その更に向こうに、大勢の人達が居る様だ。ここからでも見える。


 剣や槍、弓とか斧とかで武装した人達で戦っている様子だ。


 見た所、かなりの大勢が争っている様だ。一方が馬車を守っている。


 おそらくは、馬車の護衛をしている人達と、それを襲っている人達。


 この二つの陣営が争っている感じだな、怖い怖い、君子危うきに近寄らず。


 「折角この世界で人に出会ったのに、戦ってる最中だもんなあ。」


 戦場近くにぽっと現れた俺を見てだろう、両陣営ともこちらをチラ見している。


 静観するつもりだったが、発見された以上は無視してくれないだろう。


 自分が戦力になるとは思っちゃいないが、状況が掴めない以上どちらに加担した方が良いのか。


 馬車を護衛してるのが、実は悪徳奴隷商で、襲っている方が仲間を取り返す目的で襲っている可能性も考慮に入れなければ。


 はたまた、見た通り。悪者が馬車を襲っている事もあるだろうし。


 「さて、どちらに加勢したもんか。」


 それによって、今後の自分の生き方が決まるだろう。ここは慎重に。


 ぱっと見、馬車を護衛している方が統率がとれている。


 一方で、襲っている方はみんなバラバラだ。勝手に行動している感じだな。


 馬車を護衛しているのは一人みたいだ、少し離れた場所で大勢争っている。


 馬車に張り付いている護衛が一人、女の子が剣を持って果敢に戦っている。


 相手の方は二人の男だ、距離を取りつつ接近し囲もうとしている。


 「うーむ、このまま見過ごすのは寝覚めが悪いな。」


 女の子が必死になって戦っている、顔には悲壮感が漂っていた。


 あのままではヤバいかもしれない、女の子がピンチだ。


 「よし! 決めた! 俺は馬車の護衛をしている方に加勢するぞ!」


 女の子を助けたいという気持ちもあるが、襲っている男達が、まるで遊んでいるかのように武器を振り回しているのが、気に喰わない。


 「ああいう手合いは、虫唾が走る。」


 倒れている男から武器の剣を拾い、手に持って握りしめる。


 「結構重いな、これが本物の武器の重さか。」


 命を奪う武器だ、重くて当然。


 だが、ここで問題が、助けに入っても足手まといにならないか? という事。


 怖いが、折角異世界に来たんだ、このまま何もしないってのは、余りにも臆病だ。


 勇気が欲しかった、この世界でなら、もしかしたらあるいはと思ってしまう。


 「しっかりしろ俺! 何の為にここまで来た! このままだったら昔のままだぞ!」


 剣を強く握り、馬車の周りに居る男達を見据え、身構える。


 「怖い、怖いが、それは女の子の方がもっと怖い筈だ。」


 俺にだって、この異世界で何かが出来る筈だ!


 「女の子を助けるのに、いちいち理由なんかいるか!」


 勇気を出せ! ここで何もしなかったら男が廃るぞ!


 「ええーい! 南無三!!」


 気が付いたら、馬車に向けて駆け出していた。


 大丈夫、まだ間に合う。女の子はまだ戦っている。男達はこっちに気付いてない。


 襲って来た男達に気圧されて、女の子が転倒した。


 「きゃ!?」


 「ぐへへへ、よく見りゃいい女だぜ。」


 「ああ、このまま犯すか?」


 「そうだな、頭たちはむこうでやり合ってる真っ最中だし。ここは俺等で楽しむか。」


 「い、いや!? 来ないで!? 来るな!?」


 「げへへ、どうしたお嬢ちゃん。震えているぜ。」


 「げはは、女が剣なんか振り回すからこう言う事になるんだぜ。」


 後ろからゆっくり近づき、会話を聞く。


 なるほど、こいつ等外道か。なら排除しても問題は無さそうだ。


 男達が女の子に覆いかぶさろうとした時、忍び足で接近し、一人の首を刎ねる。


 「じゃあ、お前等もこう言う事になるんだな。」


 声を掛け、もう一人の男に剣の切っ先を向けて構える。


 「だ、誰だ!!」


 男が勢いよく振り向き、丁度剣が男の顔に突き刺さる様な位置に置いた。


 そして、そのままブスリといった。


 「げはあっ………。」


 男の目から剣の切っ先が入って行き、深々と突き抜け、絶命させた。


 「ふう~、な、何とかなったか。怖かった。」


 だが、勇気ってのを出してみたお陰か、女の子は無事だったようだ。


 「やれた、俺でもやれたじゃないか。いや、慢心は良くない。たまたま相手が弱かっただけだ。油断もしてくれたしな。」


 剣を仕舞い、女の子に手を差し伸べ、起き上がらせようとした。


 「君、立てるかい?」


 「え、ええ、はい。」


 女の子が俺の手を掴み、その場で立ち上がらせる。


 軽かった、こんな華奢な身体で、よく戦えるな。


 よく見ると可愛い顔をしている、ポニーテールが似合う十六歳くらいの女の子だ。


 革鎧の上だけを装着していて、鎧下は赤いワンピースを着ている。


 女の子が服をパンパンと叩いて土を払い、こちらの方に向き直って言う。


 「助けてくれてありがとう、貴方は同じ傭兵仲間ですか?」


 「傭兵? いや、俺は。」


 たまたま通りかかっただけだが、話を合わせた方が良い場合もある。


 ここは慎重に対応しなくては。


 「えっと、私の名前はスピナです。あの、貴方は?」


 「俺はただの通りすがりのオッサンだよ。」


 怪しさが爆発してしまったかもしれなかった。




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