第4話 傭兵団 「鉄の牙」
【タイトル】
【公開状態】
公開済
【作成日時】
2025-07-22 03:59:57(+09:00)
【公開日時】
2025-07-22 05:22:10(+09:00)
【更新日時】
2025-08-13 07:21:49(+09:00)
【文字数】
2,858文字
【本文(182行)】
ガタゴトと木製の車輪が、整地された街道を踏みしめ、荷馬車をゆっくりと進ませる。
その両脇には武装した者達が数名、荷馬車の守りを固めながら随行している。
その中のメガネを掛けた優男が、周りに聞こえる様に大声を発した。
「よーし! あと少しで町です、もうひと踏ん張りですよ!」
「「「「「 ういーーす!! 」」」」」
優男風の男――――
我等が傭兵団、「鉄の牙」が引き受けた今回の依頼は、商隊の護衛。
ここはミニッツ大陸の西部に位置する国、バリス王国。
その王都から離れた町への、物資の運搬が商隊へ与えられた仕事。
国からの仕事が回って来たらしく、大店の依頼主は大喜びで引き受けたようだ。
流石に国からの依頼を断るような事は断じて無いでしょう。
信用に関わりますからね、何より国からの依頼という事は、他の商人への大店としての威厳も示せますし。
ですが、本来ならば我等のような中規模傭兵団へ依頼が回って来る筈が無い。
失敗は許されない仕事にも関わらず、なのに、何故か?
もっと名の知れた大規模なところ、人員が常時数名在籍している様な傭兵団が受けるべき案件なのですが………。
どうやら、勉強中らしき若い「雇い商人」へ仕事を任せたみたいですね。
若手を育てるという意味でも大きい仕事を任せてみる、と言ったところでしょう。
バクチだと思うのですがね。商人の領分は分かりません。
その若い商人が傭兵団を雇っての護衛を依頼、なのですが。
困った事に、その若い商人が傭兵団への依頼料を安く済ませて、自分の懐へ幾らか入れたみたいですね。
ですので、我等の様な中規模の傭兵団を雇いたかった。と言った次第ですね。
タイミングが悪く、「鉄の牙」の団長と他数名の団員は不在。私が代理で引き受けたのですが。
隣町までの護衛でしたので、こちらも若手を育てたく思いましたし。
報酬に釣られた、というのもありますが。私の目的の為に、ある人物を探さなくてはならなかったので、傭兵団のホームベースを出る必要があったのですよね。
見つかるかどうかは、正に運次第。とにかく出ようと決めて、仲間と共に依頼を遂行中なのですよ。
若い商人は荷馬車を3つ用意して王都を出発し、何事も無く無事に目的地へ到着したので、まずは一安心ですね。
そのまま小休止もせず、町で荷馬車の荷物を降ろしたのですが。
ここで今回の仕事は完遂です。しかし、欲を出した若い商人が、この町から別の町までの新たな荷物の運搬の仕事を取って来た。
仕事が上手くいき、鼻息荒く続きの依頼を出したといったところですね。
傭兵は商いに口出しする事は無いのですが、少し節操が無い様な気がしますね。
このまま隊商の護衛依頼を継続との事でしたので、護衛を引き受けました。
若い商人は中々のやり手らしいですが、金払いが良いので安心です。
安い報酬なら冒険者1パーティー、もしくは傭兵1部隊といったところですが。
信用出来るところから回って来た仕事らしいので、報酬は良いと思われます。
なので今回も、傭兵団長のグリーンさんには報告無しで傭兵を2部隊回しました。
他にも、対モンスター戦に優れた冒険者も同行しているので、滅多な事にはならないと思いますが、どうも引っ掛かりますね。
滅多な事にはならないと、断言は出来ません。
「今のところはですけどね。」
「何か言いましたか? テックさん。」
「いや、なにも。警戒だけはしてください。」
「ういっす。」
もっとも、この規模の護衛を襲うのは魔物の群れか、よほどの自信があるのか。
冒険者は四人パーティーの様です、戦士二人に盗賊と魔術師が一人ですね。
我等「鉄の牙」からは、六人で1部隊が2部隊。計十二人の戦力です。
合計十六名の戦力です、中々の規模になりましたが。
モンスターならいざ知らず、盗賊団や山賊団あたりでも、躊躇う規模だと思います。
なので、滅多な事にはならないと私は踏みました。
傭兵が六人で1部隊の編成、それが2部隊。一応私が護衛隊のリーダーって事ですが。
最初に仕事の依頼が来た時、グリーン団長は別件で出掛けていたのですが。
団長は他の団員数名を引き連れて出かけた、何かあったと見るべきでしょうか?
「鉄の牙」の構成員は三十名、中堅どころ。まあベテランクラスですね。
傭兵ギルドで斡旋してくれる依頼や仕事を受けるには、基本六人で1部隊編成じゃないと出来ません。
今回は雇い主からの金払いが良いと踏んで、2部隊を用意し、冒険者も雇っていました。
「この商隊護衛依頼も、あと少しで町に到着します。美味い酒にありつけると良いですね。」
「テックさん、確か酒が飲めないんじゃなかったでしたっけ?」
「飲めないじゃなく飲まないんですよ、私は酒より美味い水が飲めればそれで良いのです。」
そんなどうでもいい会話をしていると、緊張した面持ちで仲間の一人が駆け寄って来た。
「テックさん! 先行してる冒険者から連絡! この先に怪しい一団の姿を確認したそうです!」
「怪しい一団?」
不味いですね、この辺りを縄張りにしている盗賊団に目を付けられたのか?
傭兵の仕事をするには、六人で1部隊単位と決まっています。
これは、人数が多い傭兵団が有利だからです。それでは若い連中が育たないんですよ。
また、弱小チームに仕事が回ってこないと、他所へ鞍替えする傭兵も出ます。
傭兵は切った張ったの危ない稼業ですからね、直ぐに命を失う事も少なくないのです。
なので、仲間以外でも面倒を見る傭兵が多くて、情報のやり取りも盛んです。
何より、若者の育成に尽力しなければ、直ぐに人材不足になりますからね。
国からの依頼も時にはありますが、実入りの良い仕事の割には、基本使い捨て。
護衛依頼の様な小さい依頼も、国軍が手を回せないから傭兵に仕事が回って来ます。
なので、我等傭兵はなんだかんだと言って、必要とされています。
金の為という者も居ますし、名誉を重んじる者も居ます。
私はまあ金の為ではあるのですが、しかし、だからと言って犯罪に手を染めるつもりは無いですよ。
割に合いません。
正しいと思った事をやってるだけなんですよね、他の傭兵仲間もそうだと思います。
だから、盗賊団などの犯罪者は、正直許しては置けませんねえ。
「むっ、風に乗って嫌な臭いがしますね。」
そして、我等傭兵団は、待ち伏せしていたであろう盗賊団と相対した。
「向かって来るなら、相手をするしかありませんねえ。」
不思議と、私は落ち着いていましたが、周りの傭兵は焦っている様子。
「しかし、こっちは十六、相手は優に三十は居ますぜ。どうします?」
「どうするって、やるしかないですよ! 護衛対象を必ず守ってください!」
私の指示に、仲間は肩を竦めて返事をした。
「ういっす! テックサブリーダーは厳しいなあ。」
「一言余計です! 全員に伝えてください! 戦闘準備!」
「了解! おい皆! 戦闘準備!!」
「「「「「 戦闘準備いい!!! 」」」」」
部隊の皆が慌ただしく動き始める、皆準備を始め、戦いに備える。
相手は三十人の盗賊団、こちらは十六人。
分が悪い、しかも護衛対象を守りながらの戦闘です。
「厳しい戦いになりそうですね。」