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第16話 ウインドヘルムの町 ④



  セレニア公国 王城 謁見の間―――――



 「………で、あるからして、我がレイラ公国としましては………。」


 占領されたセレニア公国の王城、その謁見の間の玉座に座る男。ファイサル。


 ローズ王国から派遣された代官だ。


 ローズ王国第二王子の彼は、欠伸をし、他国の使者の話を聞き流していた。


 玉座の左右には、若く美しい女性たちを並べ、今夜の相手を想像している。


 「………以上の事情により、我がレイラ公国は貴国ローズ王国と事を構えるつもりは毛頭無く、よって、国境沿いに兵を敷いている貴国の軍に移動して頂きたく………。」


 使者の話が佳境に差し掛かったところで、ファイサルは拍手をし、言い放つ。


 「流石は田舎ながらに学者を輩出しているレイラ公国、雄弁な事、感服した。なまりが強すぎて言っている意味の半分も分からぬが、言いたい事は分かった。」


 「で、では。」


 ファイサルは後ろに控えている近衛騎士を呼び、命じる。首を横に振って。


 「ロズオーク、この男の首を刎ねよ。」


 「お、お待ちください。使者を害すれば、レイラと事を構える事に。」


 近衛騎士は説明し、ファイサルに意見した。だが。


 「おや? ロズオーク、貴様敗残国の騎士の分際でこの俺に意見か?」


 「い、いえ、そのような。」


 ファイサルの鋭い眼光に危険な色が怪しく光り、騎士ロズオークを射抜く。


 「ああ、いいって。ただ、お前がそんな態度なら、行方知れずの公女に激痛を味合わせるだけだがな。この俺のスキル「隷属化」を公女に施して野に放った事によってな。そしてこの俺の自由意思によって何時でも好きなだけな。くふふふひひひひははははははっ!」


 「お、お待ちを、それだけはどうか!」


 近衛騎士のロズオークは、無駄と分かっていても、ファイサルに懇願し考えを変える様願う。


 ファイサルは立ち上がり、自身の胸を軽く叩き、周りを威嚇するように言い放つ。


 「この国では俺が法律だ! この俺こそがルールなのだ! 俺の好きにしていいのだ!」


 「ファイサル! 様。」


 ロズオークは一瞬、頭に血が登ったがすぐさま冷静になり、控える。


 それを見て、ファイサルは鼻で息をする。


 「ふんっ、俺は寛大だからな。恨むなら、公女を守り切れなかった自分を恨め。元セレニア公国の近衛騎士どの。」


 「くっ。」


 ロズオークは俯きながらも仕方なく、剣を抜き、使者に近づく。


 「ま、待ってくれ!? 私を切れば、戦になりますぞ!?」


 「すまぬ。」


 せめて痛み無きようにと、一瞬で使者の首を刎ねたロズオークは、剣を仕舞う。


 「よし、使者の遺体を送り返せ、戦争だ。戦争の準備をしろ。」


 「はっ。」


 ファイサルは一歩前へ出て、手に持ったワインを飲み干して言う。


 「はっはっはっはっは、やはり戦は楽しいなあ~。あははははははは。」


 謁見の間には、ファイサルの高笑いの声が、響いていた。



  ウインドヘルムの町――――



 「美味い! これ何の肉か分からんが、とにかく美味い。」


 「ほんと、何の肉か分からないけど、美味しいですね。テックさん。」


 「そ、そうですね。二人共、酔うのが早くないですか?」


 「すいませーん、エールもう一杯!」


 「わたしも~!」


 「は~い、ただいま~。」


 賑やかな酒場の風景を楽しみつつ、俺達三人は乾杯し、酒と食事を楽しむ。


 酒場には色んな職業の町人が来ている、仕事の後の一杯を楽しんでいる。


 異世界でも美味い飯は良い、酒も進む。エールはちょっと生ぬるいが。


 酒と食事を堪能して、夜が更けていく。


 「ところで、タナカさんは今日は泊る所は考えていますか?」


 テックさんに言われて、逡巡してから答える。


 「今日のところは馬小屋にでも泊まりますよ。節約しないと。」


 報酬を貰ったからといって、まだ安心出来る程の金額ではない。


 お金は有限だ、大事に使わないと直ぐに無くなってしまうぞ。節約節約。


 「そうですか、では明日、色々お話したい事がありますので、今後の事とか。」


 テックさんは水を飲み干して、俺との明日の約束を取り付けようとしている。


 俺も、この世界について知りたい事が多々ある。なので、明日会うのはこちらとしても願ったりだ。


 「分かりました、では明日。え~っと、何処で会いましょうか?」


 何処で落ち合うか聞いたら、テックさんは何か考え込んでから返事をする。


 「では、冒険者ギルドで落ち合いましょう。そこでなら色々秘密の会話も出来ますし。」


 テックさんはニコリと笑みを浮かべ、何やら考えがある様子だ。


 「あ、私も良いですか? タナカさんともっとお話ししたいと思ってたところでして。」


 スピナも俺に話があるみたいな事を言ってきた、まあ、スピナと会うのもやぶさかではない。


 ふーむ、秘密の会話と来たか。テックさんは俺に何の話があるのだろうか?


 「冒険者ギルドですね、分かりました。では明日。おやすみなさい。」


 一旦別れの挨拶をして、席を立つ。馬小屋を探すところから始めないと。


 この町の事は、実はよく分かってはいない。ゲームに登場したが、あまり記憶に無いのだ。


 こんな感じだったな、程度の事しか知らない。もう随分前にプレイしたからね。


 会計はテックさん持ちだったので、「ご馳走様でした。」と最後に付け加えて。


 「はい、おやすみなさい。良い夢を。」


 「おやすみ~。」


 テックさんとスピナはまだ酒場に居るみたいだ、テックさんは水を飲んでいたが。


 スピナは酔い過ぎだ、誰かが介抱しなくて大丈夫かと心配になる。


 まあ、テックさんが居るから問題無いか。二人はお互い信頼しているみたいだし。


 テックさんたちに別れを告げ、酒場を出ていき徒歩で馬小屋を目指す。


 途中の通行人に馬小屋の場所を聞いて、教えてもらった通りに歩く。


 「寝られれば何でもいい、安いし。」


 町の外側に繋がる門の近くに馬小屋はあった、敷地内に入って直ぐに家屋へ。


 扉を軽くノックして、出て来た家主に挨拶して、素泊まりの交渉をする。


 話はすんなりと進み、馬小屋で寝ても良いと言われた。よかった、優しそうな主人で。


 聞いた話では、俺以外にもやはり馬小屋で寝る人が多いらしい。


 冒険者や傭兵、路銀の少ない旅人など、外で寝るにはちょっと、と言う人の為だそうだ。


 一泊寝泊まりで、銅貨3枚と言われた。俺は金貨で払おうと思ってやめた。


 テックさんから若い商人の護衛兼見張りの依頼を達成した報酬があったのを思い出した。


 俺は家主に銀貨1枚を渡し、お釣りとして7枚の銅貨を受け取る。


 なるほど、銀貨1枚は銅貨10枚と同じという事か。


 じゃあ、金貨は? と思っても、金貨を使う機会なんて滅多に無いだろう。


 そこはまあ、保留だな。いずれ分かる時もあるだろうよ。


 ゲームではお金の通貨単位は「ゴール」だった、だがここでは金、銀、銅貨といった硬貨でやり取りするらしい。


 「やっぱり、少しゲームとは違うところもある。という事か。」


 何故少し違うのかは、正直分からん。そういう世界だと言われれば納得するしか無いではないか。


 まあ、あれこれと考えるのは後でも出来る、今は疲れた体をゆっくりと休めたい。


 明日、テックさんたちと冒険者ギルドで落ち合う事になっているので、早めに寝る事にした。


 「良い夢が見れますように。」


 夜空に向かい、星に願うのだった。



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