第12話 荷馬車に揺られて情報収集
荷馬車に乗り込み、御者がたずなを振るい進み出す商隊。
今は仕事をしているのだ、決して楽をしている訳ではない。
と、思うのだが。
ぶっちゃけ、これ、楽だわ。
だって、荷馬車に乗って商人を見張るだけだもの。
これはあれだな、テックさんなりのお礼のつもりなのだな。
魔獣を討伐したので、そのお礼代わりにこんな楽な仕事をくれたんだろう。
「別に、歩けと言われたら、歩くよ。」
まあ、楽ちんではあるから、文句は無いですよ。
他の傭兵団の人達は、荷馬車の周りの防御を固めながら歩いている。
冒険者の人達も居たが、先行して進路を確保しているらしい。
警戒を怠らないってのは、安心感が違うな。ゆっくり出来そうだ。
もうすぐ町に到着するみたいだが、その短い道のりでも楽が出来るのは有難い。
報酬も貰えるみたいだし、この世界のお金を持っていないので助かる。
若い商人も大人しくしている、そりゃそうだろう。
盗賊団を雇って、荷馬車を襲わせた訳だし。
それを護衛する傭兵団のメンバーにバレたら、シャレにならない。
話を聞くと、どうやら若い商人の雇い主である大店の店主に恨みがあるそうな。
人をこき使い、若い商人を馬鹿にして、自分を偉く見せようとしているんだってさ。
「どこの世界にも、そういうの居るんだな。」
「分かってくれるか、オッサン。」
「だからって、やり過ぎだよ。アンタ。」
ほとぼりが冷めてから、荷馬車の荷物を横領して、一稼ぎすると言っていた。
「まったく! 猛省せよ!」
「してるってば。」
テックさんが不機嫌気味に言い、事を公にしない事で、話は着いた。
俺は商人を見張るだけなので、今回は楽な仕事を貰えたという事だな。
町に着いたら、若い商人はそのまま商人ギルドに引き渡して、沙汰を下される。
やっぱり、悪い事は、出来ない。という事だね。
町に着くまでの間、退屈しのぎに会話をして情報をそれとなく集めてみるか。
「なあ商人さんよ、2,3聞きたい事があるんだが。」
「ああいいよ、何だ? 聞きたい事って。」
座っているだけなので、手持無沙汰なのか、商人も話に乗りきらしい。
「俺は田舎から出て来たばかりで、情勢とかに疎いんだが、この国の名前は何て言うんだい?」
まずは軽く聞き込みから、話を広げるのはそれから。
「おいおい、この国の名前を知らないって、どこの田舎から出て来たんだ。」
若い商人は訝しんでいたが、俺が日本から来たと言って信じる訳が無い。
こちらの情報は極力秘密にしなくては、混乱の種になりかねんからな。
「かなり遠くから出て来たばかりなんだ、ちょっと調べものがあってな。」
ちょっと苦しい言い訳っぽくなってしまったが、まあ仕方が無い。
「ふ~ん、調べものねえ、まあいいか。この国はバリス王国って名前だよ。国を治めているのが女王マリア様だ。」
ほうほう、ここはバリス王国か。ゲームでいう所の四大大陸の一つ、ミニッツ大陸の西にある国だったな。
「女王マリア様って事は、今は女神暦986年って事かい?」
「あ、ああ。そうだが、そういうのは知っているんだな。」
ふーむ、ゲーム「ブレイブエムブレム」の歴史をなぞっているのかもしれんな。
もう少し聞いてみるか。
「商人って事は、ある程度情報に詳しいよな?」
「それはまあ、そうだが。自分の食い扶持を左右するからね。他の奴等は情報の価値をまるで分かっちゃいない、情報次第で国が動く事もあるってのに。」
ふむ、やはり情報の価値基準は低いか。価値を知っている商人の様な者も居るか。
ならば、情報を制すれば、この異世界でもやっていけるという事だろう。
幸い、俺にはゲーム知識がある。これを有効利用しない手は無い。
「もう一つ聞きたいのだが、世界情勢について何か知っているかい?」
そう、今この世界で起こっている出来事を把握する事が、一番重要だ。
それによって、俺の今後の方針を固める大事な要素だ。
距離を制する者戦いを制する、情報を制する者全てを制する。ってな。
「世界情勢かあ、それは俺もよく知らない事の方が多いんだよ。俺は基本、国内で商いをしているから、外からの情報は全くと言っていい程知らないよ。」
なるほど、国内の情報を集めるのが先か。国外の情報はこの際後でもいい。
「噂話程度の事とかもかい?」
「噂は所詮噂だよ、確証が無い情報に踊らされる程、迂闊じゃないよ。」
ふーむ、角度の低い情報は信じないか、噂話も馬鹿には出来ないと思うがな。
「どんな噂だい?」
「ん~、そうだな~、何処かで戦争やってるらしいが、バリスには関係ないよ。この国は平和だからね。マリア様は争い事を嫌ってるからね。」
戦か、ゲーム「ブレイブエムブレム」の歴史では、そろそろ大陸中央のローズ王国が仕掛けてくる筈だが、さて、どうだか。
「確か、女神教を信奉している国が多いんだよな?」
「当たり前だろう、むしろそれ以外何を信じるって言うの?」
やはりか、この世界では女神教を信じている人が多いって事だな。ゲームと同じって訳か。
「確か、三柱の女神、だったよな。」
「何を今更、オッサンだってそうだろうが。」
うーむ、俺は特に信心深いわけじゃないのだが、まあ良いか。
あと、聞きたい事は、やはりミーナの今後の事だな。
奴隷がどんな扱いを受けるのか知らないが、何とか自由にしてあげたいし。
「ところで、聞きたいのだが、奴隷商に話を付けるって事で良いんだよな?」
「ああ、そこは商人としての俺を信用してくれ。アテがあるんだ。」
「ほほう。」
「まあ、俺がギルドに引き渡されても、最悪誰かに頼むから安心してくれ。」
「良いんだな、信用して。」
「ああ、商人の名に懸けて。それは約束する。代わりに俺の身の安全を頼む。」
「了解だ、だが実際どうやって奴隷を自由にするんだ?」
「簡単だ、奴隷商に頼んで隷属の紋章を解除すれば良いんだ。」
ほほう、隷属の紋章とな? そんなモノはゲームには出てこなかったが。
そういうのがあるのだろう、この異世界では。
「見えてきたぞ! 町だ!」
外から声が聞こえて来て、もうすぐ町に到着するらしい事が分かった。
さて、町に着いたらまず情報屋を探すか。どの辺りに何があるのかとか調べないと。
「ブレイブエムブレム」をやり込んでいたから、地図はまだ頭の中に入っている。
場所が分かれば、あとはゲーム内の出来事の噂を聞いて、今どのあたりの時系列を進んでいるのかを確認しないと。
それによって、自分の行動目標を決めれば良い。
とりあえず、この異世界での大まかな目標は、この世界を満喫する事。
観光やグルメなど、色んな所へ行って、色んな景色を堪能したい。
ついでに、元の世界へ戻る方法も探る。これはまあ、なるようになれだ。
自分にどうこう出来る事じゃないような気がするからね。
荷馬車は揺れて、街道を行き、楽な仕事をして、歩かずに町に着く。
いいのかな? こんなんで。
途中、何の妨害も無く、すんなりと荷馬車は町に到着した。
町の入り口でテックさんが門番の人と会話して、商隊の積み荷を確認している。
ロープで縛られた盗賊団のリーダーを見た時は、流石に驚いて騒ぎになっていたが。
それも時間が経てば、また静かな時がやって来る。
「俺はどうなるんだろう?」
この世界の住人でないので、身分証などは持って無い。
だが、それも杞憂に終わる。テックさんが上手く話を着けてくれたみたいだ。
流石傭兵団の部隊を預かるリーダーだな、頼りになる。
こうして、荷馬車は町に入り、今回の仕事の依頼を達成したのだった。