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第11話 弔いの雨


 なんとなくだけど、分かっていた事だ。


 傭兵団と盗賊団の激しい戦いは、お互いに戦死者を出している。


 その殆どがキリングパンサーの暴走によるものだが、盗賊団は壊滅状態。


 傭兵団も大型魔獣の攻撃によって負傷し、倒れた者も数名。


 俺のスキル「メーカー」の使用で、盗賊団の頭目を無力化したものの。


 「やっぱり、手放しには喜べないよな………。」


 もっと上手いやり方があったかもしれないと、そんな風に思ってしまう。


 盗賊の頭目はクズだったが、「ビーストテイム」のスキルに溺れて胡坐をかいていただろう。


 その「ビーストテイム」を、俺が削除した。その結果魔獣は暴走。


 敵味方に被害を出した、誰も俺を責めない。そりゃそうだ、俺の「メーカー」のスキルを秘密にしているから。


 スキルは所詮スキル、それをどう使うかは自分次第。


 俺の行動によって被害を受けた者、救われた者、あるいは半々。


 後悔が後からやってくる、異世界に来ても、俺はあまり変わらないようだ。


 人生で何度目かの経験をし、今ここに立っている。


 そう、俺は立っているんだ。生きているから。


 これからは、「メーカー」のスキルの使いどころを間違えない様にしよう。


 俺の所為で傷ついた者がいる事を、忘れない為にも。


 他の誰でもない、俺自信がその負い目を感じているから。


 傭兵団のみんなは仲間の遺体を回収していた、弔う為に。


 傭兵たちの遺体を集め、火葬していた。その魂を天に返すように。


 その離れたところでも、盗賊の遺体を燃やしている。


 「敵にも敬意を払うか、中々出来る事じゃないと思うよ。」


 「そうだね………。」


 ミーナが隣で祈っている、自分も両手を合わせて合掌した。


 安らかに眠れよ。


 テックさんから聞いたが、遺体を焼くのはアンデッドモンスターにさせない為だそうな。


 死体をそのまま放置すると、アンデッドになってしまうらしい。


 なので、火葬する。骨は埋葬してお墓を建てると言っていた。


 盗賊は? と聞くと、焼くだけだと言う。そこまでしてやる義理は無いそうな。


 俺が手伝いを申し出て、断られた理由が分かった。


 傭兵たちはみな、涙を流して炎を見つめている。


 確かに、傭兵団の問題だと言っていた訳だ。悲しい気持ちが伝わってくる。


 仲間がやられて悔しい気持ちも分かる、泣き崩れる者もいる。


 空を見上げたら、ぽつりぽつりと、丁度雨が降って来た。


 弔いの雨だ。


 雨に濡れながら、みんなは最後まで祈りを捧げていた。


 俺も、黙とうした。


 「さて、湿っぽいのはここまでです。みなさん! 良く戦ってくれました、町に帰ったら酒ですよ!」


 「「「「「 おおーーーー!!! 」」」」」


 テックさんがみんなに声を掛け、それに応える傭兵達。そこには湿っぽさはもうない。


 傭兵たちはみな、仲間の遺品などを回収して、道具袋へと入れていく。


 戦利品として、盗賊たちの遺品も回収していた。後で売却するのかもしれない。


 まあ、打ち捨てられて、雨ざらしになるよりかは、ね。


 しかし、盗賊の頭目はロープで縛られ、そのまま馬車へと放り込まれていた。


 高額賞金首らしい、幾ら位なのかな? それを捕まえたのだからちょっと楽しみ。


 まあ、それだけ悪さしてきたと言う事だろう。情けを掛ける道理はない。


 と、そこへスピナがやって来て、こちらに声をかけて来た。


 「タナカさん、テックさんがお話があるそうです。」


 「分かった、今行きます。」


 おそらく傭兵団への仮入団の話だろう。


 その場を離れようとすると、ミーナがしがみついてきた。


 「タナカ………。」


 うーむ、どうやら懐かれてしまったようだ。心配そうにこちらを見ている。


 「大丈夫だよ、ちょっと話してくるだけだから。」


 「うん………。」


 ミーナは頷き、しがみついていた俺の身体を放した。年頃の子はよく分からん。


 「スピナ、悪いけどミーナの事見ててくれるかい。」


 「分かりました、私でお役に立てるなら。」


 ミーナの事をスピナに任せ、一人でテックさんが居る所へと移動した。


 テックさんの所へ行くと、雇い主らしき若い商人と揉めていた。


 「なぜそんな事をしたんですか! 裏切りですよ!」


 「あんた等には分かるまい! 俺がどれだけあの大店の主人に苦労してきたか!」


 「だからといって! 盗賊を雇うなど!」


 ふーむ、何やら怪しい展開になっているようですな。小声だが、激しく言い合っている。


 「テックさん。」


 声を掛けると、テックさんと若い商人は言い合いを止めてこちらを向く。


 「ああ、タナカさん。待ってました、お話があるのですが。」


 「はい、スピナから聞きました。先程の仮入団の件ですが………。」


 俺が話を始めると、テックさんは首を横に振り、若い商人を指差した。


 「いえ、その件じゃありません。その話は後ほど、それより困った事態になりまして。」


 「何でしょうか?」


 テックさんは一瞬考える素振りをし、そして打ち明けるように話し始めた。


 「誰に言うか迷ったんですが、我等鉄の牙に護衛の依頼をしたこの人が、どうやら先の戦いでの盗賊団を雇って、荷馬車を襲うように依頼したらしいのです。」


 「へ?」


 何だと!? それが本当なら、自分の荷馬車を襲わせたって事か?


 「スピナから聞いた話で、この商人と盗賊が戦いの最中、何やらコソコソと話していたのを聞いてしまったらしいのです。なので、確かな情報だと思います。スピナには口止めしてもらっています。」


 「そりゃ、そんな事がバレたら。」


 「ええ、傭兵仲間から袋叩きでしょうね。最悪死にます。」


 超怖い。


 「何でまた、そんな事に? そして俺に?」


 テックさんはこちらを見て、二ヤリとした笑みを浮かべている。


 「あなたが信用出来る人だと確信したからです、これでも人を見る目はある方なんですよ。」


 ふーむ、そんな事言われてもなぁ。


 「俺にどうしろと?」


 「町に着くまでで構いません、この商人を見張っていてほしいんです。これは、タナカさんへの正式な個人依頼となります。この依頼を引き受けてはもらえませんか?」


 ふーむ、部外者の俺じゃなきゃダメって事だろう、一応この商人が今の傭兵団の雇い主って事になるのだから。


 そして、もし事がバレたら大事になる。そこでタナカめの出番という事か。


 テックさんには世話になったし、人柄なのか、信用も出来る好人物だ。


 この依頼を引き受けても問題無いと思う。


 「分かりました、その依頼を引き受けます。ただ、条件が一つ。」


 「何でしょうか?」


 「テックさん、あの奴隷少女のミーナを、どうにか自由に出来ませんか?」


 ミーナを買ったのは盗賊だ、だが頭目は捕まり、主従契約とかはどうなるのか。


 自由の身になれれば良いが、さて、奴隷関係の事はさっぱりだ。


 テックさんなら、何か上手い事出来ないかなと思うんだが。


 しかし、テックさんは若い商人の方を見て、何かを言わせようとしている。


 若い商人はそれに気付き、溜息交じりに答えた。


 「分かった、俺が奴隷商に話を付ける、だから俺の身の安全を保証してくれ。」


 「だ、そうです。如何ですか、タナカさん。」


 「俺で良ければその依頼、引き受けましょう。」


 やる事は決まった、あとは実行あるのみ。目的があるのは気分が良い。


 さて、町までの商人を見張る依頼、一丁気張ってみようか。



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