表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/5

【残り時間:39分55秒】

【残り時間:39分55秒】


 目的地:魔王城。

 手段:お姫様抱っこ転送。

 荷物:爆弾だらけ。

 勇者:荒神ユウト。

 魔導士:リリィ・アストレア。



 ◆ ◆ ◆



 ――光が収束し、足元に硬質な石の感触が戻る。


 ユウトとリリィが転送されてきたのは、禍々しくも巨大な黒曜石の広間だった。天井は高く、壁の装飾は不気味な獣や死神の彫刻、そこかしこに炎の魔法灯が灯っている。


「……着いた、のか?」


「はい……間違いありません。ここが魔王城です……!」


「おぉ……ようやく来た……!」


【残り時間:33分12秒】


「って、やっべぇ! もうこんな時間かよ!」


「すぐに玉座の間へ向かいましょう! 魔王を倒さなければ!」


「よし、で、どっちだ?」


「知りません!」


「おい!!!!」


 この魔導士、しれっと爆弾は持ってくるくせに、地図は忘れてるタイプか!


「てか、広すぎない!? ここ! 無駄に! 廊下が!!」


「わたしの空間把握魔法では、周囲50メートルしか探れません。中途半端に高性能なんです」


「もうちょっと頑張ってくれよ!」


「じゃあユウトさんが魔力供給してくれたら、少しは拡張できますよ?」


「どうやんのそれ!? キスとか!?」


「はい、口から直接マナを吸い取るので――」


「やっぱいいわ!!!」


(いや待て、状況次第では……いやでも今はダメだ、今はダメだろ理性……!)



 ◆ ◆ ◆



 しばらく、闇の迷宮の中を右往左往していた。


 階段を上れば、そこには火を吹くゴーレム。

 扉を開けば、絶叫する蝙蝠の群れ。

 落とし穴を踏めば、真下にリリィが落ちていく。


「わあああああああああああああ!?!?」


「リリィィィィィィィィィィ!!」


 咄嗟に手を伸ばして掴み、間一髪で彼女を引き上げる。


「あぶねぇ……マジあぶねぇ……!」


「わ、わたし……吊られるの初めてでした……!」


「吊られるってなんだよ……!」


「今後のために縄を常備します!」


「そっち方向の経験値上げなくていいよ!!」




 そして再び、巨大な十字路。


 右か、左か、はたまた――


「ねえリリィ、さっきから思ってたんだけど……この城、意図的に迷わせようとしてないか?」


「……ユウトさん、気づいてしまいましたね。そうです、ここは“移動型迷宮”です。一定時間ごとに通路が組み替えられる、魔王直属の要塞型トラップです!」


「悪趣味すぎるだろこの魔王!!」


「ちなみにこのタイプ、設計者の性格が出るらしいです」


「こいつ、間違いなく陰湿だな……!」



【残り時間:29分47秒】



 タイムリミットが刻一刻と近づく。


 二人は半ばヤケになりながら壁を殴り、トラップをかいくぐり、進み続けた。


 しかし、次の瞬間。


「――おや?」


 突然、頭上から声が響いた。


「こんな短時間でここまで来るとは……まさか、本当に転送陣を突破して来るとはね」


 天井が裂け、黒い羽根を広げた人影が現れる。

 銀髪、赤い瞳、異様に整った顔立ち――そして何より、彼女の背には禍々しい角が生えていた。


「ようこそ、勇者。私は魔王――ルシフィエラ……予想外だけど、歓迎するわ」


「ま、まままま魔王ぉぉおおおお!!?」


「嘘!? こんなとこでボス出てくるの!?」


「あなたたちが来た方向、正規ルートじゃないから。思わず様子見に来たのよ」


「正規ルート!? あるの!?」


「あるわよ、当然でしょ!? 各階に順路とか表示してあるし、従業員用通路もあるのよ!?」


「表示なんてどこにもなかったぞ!?」


「罠踏みすぎて見落としたのよあなたたち!!」


 この魔王、なんかノリが軽い。

 怖いけど……妙に会話が成立してるあたり、人間味があるというか。


「それにしても、“最後の希望”のスキルか……よく発動させたわね。体中ボロボロじゃない?」


「そりゃあね!! 使うたびに筋肉痛が倍増するんだよ!」


「大丈夫? 明日、生きてる自信ある?」


「明日どころかあと30分で世界終わるんだが!?」


 魔王ルシフィエラは、ふっと微笑む。


「そう、それなのよ。わたし、正直……あなたに会って、気が変わった」


「は?」


「面白いわ。こんな短時間で、ボロボロになりながらここまで来た人間……初めて見た。ねぇ、勇者。ひとつ提案があるの」


「てい……案?」


「ちょっと、私と雑談しない?」


「雑談してる時間あるかぁぁぁぁぁぁ!!!!!」



【残り時間:27分12秒】



 世界の命運をかけた交渉(という名の茶番)が、今始まる――!



 ◆ ◆ ◆



 魔王ルシフィエラの私室(※応接間つき)に案内されて数分後、俺は信じられない状況にいた。


 ――目の前には、ケーキと紅茶。

 ――その向かいには、魔王がいる。

 ――そしてリリィは爆弾をテーブル下に隠し持っている(物騒)。


「で……その“提案”ってやつは?」


 そう尋ねると、魔王はティーカップを口に運びながら、まるで雑談のように語り始めた。


「この世界、もう限界なのよ」


「……は?」


「王国は腐敗し、勇者は神の使いと称して税をむさぼり、魔法は貴族だけのもの。私が世界を終わらせようとしたのは、“リセット”するため」


「……おいおい。人類ごと吹き飛ばすのが“再起動”のやり方か?」


「だって、“女神”がそう言ったのよ?」


 その名前が出た瞬間、俺とリリィの動きが止まった。


「え、女神って……転生の時に出てきた、あの金髪ふわふわ系ぶっ飛びガール?」


「そう。あの子が言ったの。“世界を救うためには、すべてを終わらせましょう”って。だから私、魔王になったの」


「…………えええええええええ!?!?!?」


 リリィが叫んだ。


「ちょっと待ってください! 女神様、世界救うんじゃなかったんですか!?」


「だから、救ってるのよ。悪い部分をまるっと爆破するって方向で」


「爆破すれば全部OK理論じゃないですかあああああああ!!!」


 どこぞの爆弾魔と考え方が似てるぞこの女神!


 俺は椅子から立ち上がった。


「ふざけんなよ……お前は……そんな理由で……!」


 拳を握りしめる。震えているのは、怒りか、焦りか――いや、その両方だ。


「世界が腐ってる? だから壊す? 確かに、あちこちダメなのはわかる。でもな――“だから滅ぼします”で全部済むなら、俺はとっくに地球を爆破してる!!」


「地球、爆破したかったの?」


「高校2年の期末テスト前とか、だいたいそういう気分だよ!!」


 俺の叫びに、魔王は静かに目を細めた。


「なら……あなたは何のために、ここまで来たの?」


「決まってんだろ!」


 俺は、心の底から叫んだ。


「生きたいんだよ俺はァァァアアアアアア!!!! こんなわけわかんねぇ異世界で、訳も分からず戦って、筋肉痛と火傷と爆発まみれで! それでも……せっかく生き返ったんだ!! たった一時間でも、俺はこの世界で――“生”を感じたんだよ!!」


 しん、と沈黙が広がる。


 やがて魔王ルシフィエラは、静かに――笑った。


「そう。なら……あなたの“生きたい”って気持ち、どこまで貫けるか――」


 彼女の体から、膨大な魔力が噴き出した。


 黒いドレスが裂け、禍々しい漆黒の鎧が現れ、背中からは巨大な羽根が広がる。


「見せてちょうだい、勇者。私の“滅び”を止められるか!」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ