【残り時間:60分00秒】
【残り時間:60分00秒】
目が覚めたとき、そこは――真っ白だった。
白すぎて落ち着かない。しかも、視界のど真ん中に何やら光ってる女神(仮)みたいなのが浮いている。
「……あれ? 俺、たしか……」
「トラックに轢かれて死にました♡」
「なんて?」
俺の名前は荒神ユウト。現代日本の高校二年生。普通に部活して、普通にラーメン食って、普通に帰宅中、青信号を渡ってたら右折車に轢かれた。
で、目が覚めたらこの空間だ。
「えー、では説明しまーす! あなたはですね、地球での人生を終了しまして、ただいま異世界に転生することが決定いたしました!」
「異世界!? あ、ありがちだけど……まぁいいや。で? 俺、チートもらえる感じ?」
「いえ、時間です♡」
「は?」
「異世界はですねー、ただいま世界滅亡まで残り60分でして~」
「え、何それ!? 俺、詐欺られてない!? 転生ガチャ大外れじゃない!? せめて一週間くらいくれよ!」
「わがまま言わないの。ちゃんと“最後の希望”スキルはついてますから。がんばって魔王倒してきてください♡ では、いってらっしゃ~い」
「ちょっと、ま、待っ――!」
◆ ◆ ◆
「…………はっ!」
ガバッと起き上がった俺の目に映ったのは、青空。そして森。そしていきなり火の玉が飛んできた。
「ちょ、えっ!? おま、ええええええええええええええっ!?」
反射で横っ飛び。間一髪で火の玉を回避。地面に転がった俺の耳に、けたたましい悲鳴が届いた。
「誰か! 誰か勇者様はいませんかーっ!!」
見ると、少し先の村で、煙が上がっていた。巨大なトカゲみたいな魔物が暴れてる。なんかファンタジーっていうより、災害。
「……よし、落ち着けユウト。まず現状を確認しよう」
・ここは異世界。
・世界滅亡まであと60分。
・スキルは『最後の希望』ってやつ。
・使い方は「死にそうになると発動」らしい。
・武器、防具、なし!
・情報収集、なし!
・時間、ない!
「いやムリじゃね!?」
でも――
(……あの村、見捨てるのは……ないな)
まったくもう、性格が“勇者体質”なのが損だ。
「――行くしかねぇ!!」
走った。村まで全力疾走。足元の地面が爆発しても、火の粉が髪に引火しても、止まれなかった。
「うおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
地面を蹴り上げ、民家の屋根を飛び越え、火球を手で弾いて(痛い)、荒神ユウト、爆誕から3分で初戦闘!
「おいトカゲぇぇええ!! こっちは死にたくねぇんだよぉおおおお!!」
素手で殴った。どうかしてる。でも殴った。というかもう、逃げられないし!
トカゲの一撃がユウトの脇腹をかすめ――その瞬間、世界が反転した。
――スキル【最後の希望】発動。
――条件:「瀕死状態で自動発動」
――効果:「あらゆるステータスを10秒間100倍」
――副作用:「10秒後、確実にバテる」
「ッッッッッしゃあああああああああああ!!!!」
ユウトの拳が、トカゲの頭蓋を粉砕した。
◆ ◆ ◆
「えっ、なに、誰この人……」
「もしかして、勇者様……?」
「なぜ素手で勝てた……?」
村人たちは呆然と立ち尽くし、その中心で俺は、全身ガクガクに震えながら地面に座っていた。
「やっべぇ……立てねぇ……」
体中がバキバキに痛い。10秒だけ最強になったツケがきっつい。
だがそのとき。
「あなたが……助けてくださったんですね……!」
ふらりと近づいてきた少女。金髪ポニテにローブ姿。やけに透明感のある顔立ちで、村娘というより魔法使いっぽい雰囲気だ。
「ありがとうございます……! わたし、リリィ・アストレアと申します!」
ぺこりと頭を下げた彼女の目に、妙な光が宿っていた。
「わたし、あなたと一緒に魔王を倒します! 世界を救う旅に、ぜひ同行させてください!」
「え、いきなり!? 俺まだレベル1だぞ!?」
「大丈夫です。わたし、実は王国の宮廷魔導士ですから」
「そっちもスゴいな!?」
こうして俺は――
残り52分で、最初の仲間を得た。
……待って? あと52分しかないの!?