第三十話
王立記録局・東翼第二閲覧室。
静まり返った空間の中、厚手の木製扉が軋みを上げて閉じる。
報告書はすでに提出され、調査記録も保管された。エヴァンとセシリアの手によって幾度となく綴られてきた探索の記憶は、今回の任務をもってまた一章を閉じた。
「……これで、一区切りだな」
エヴァンは窓辺に立ち、外に広がる黄昏の空を眺めていた。
王都フェル=グレイの街並みが、沈む陽に照らされて黄金に染まっている。人々の営みの向こうに、彼の辿ってきた幾つもの廃墟、塔、砂漠、そして夢のような迷宮が思い出のように浮かんでは消えていく。
「区切り……そうね。けれど、それは終わりじゃない」
セシリアはそっと彼の隣に立った。手には、今回の探索で収めた最後の記録文書。記されたばかりの新しい一枚。
「この仕事に本当の終わりがあると思う?」
彼女の問いに、エヴァンは首を横に振る。
「思わない。終わりは誰かがそう決めたときにしか訪れない。俺はまだ……終われないよ」
「なら、また歩き出すだけね。次の頁へ。私たちらしく」
「語られるべき記録が、まだどこかにあるってことだな」
ふたりの視線が重なる。
旅路の始まりであり、同時にこの章の幕引きでもある静かな時間。
「行こうか」
エヴァンが一歩、扉へ向かって歩を進めた。
「どこへ?」とセシリアが問うと、彼は肩越しに答える。
「まだ語られていない物語の在処へ」
扉が静かに開かれる。
差し込む風は新たな頁を捲るかのように、ふたりの背を押した。
こうして、エヴァン・クロスフィールドとセシリア・ヴァレンタインの新たな探索は、次の章へと続いていく。
まだ見ぬ地へ――
まだ語られていない、語るべき物語を追って。




