6
ノックは何度も続いた。まるで早く開けろ。お前の居場所は分かっている、とでも言うように。
「大丈夫なのか」
ピコが不安げな声を上げた。
「分からない」
まずい。もしかしたらピコは後をつけられていたのかもしれない。塔からの脱走に対する規制はかなり厳しい。あのナガセなら何をしでかすか分からない。これでもし匿っていることがバレたら……。また……。
ホダカは焦った。手に汗が滲む。
そろりと覗き穴に目をかざす。湾曲した丸い世界には、がっしりとした関所の職員が一人立っていた。下を向いているため、顔は見えない。
ホダカは息を呑んだ。これは本当にまずいかもしれない。
もう一度、ドン! と大きなノックが一つ。
「ピコ、隠れておいてくれ。バレたら面倒だ」
「わ、分かった」
ホダカはドアノブに手をかけた。一息にノブを捻る。
ミズキが立っていた。
「え?」
「あ、ホダカさん。なかなか出ないもんだからつい強めにノックしちゃいました。うるさくなかったですか?」
「いや、ええ……」
「どうしました? そんなに汗をかいて」
「別になんでもないです。はい。それで今日はどうして? 僕は今日休みですが」
なんとか平静を装ってホダカは言った。
「ああ、いや大したことじゃないんです。もし良かったら差し入れをと思いまして。職員同士の親睦を深めるのも大事でしょう」
ミズキが差し出した袋からは、クッキーが見え隠れしていた。恐らく彼の街で買ったものだろう。
「ああ、ありがとうございます。あんま手間取らせるのもアレですから、ここで受け取りますよ」
「いや何言ってるんですか。一緒に食べないと意味がないじゃないですか。さあさあ、行きましょう」
そう言うとミズキは脱いだ靴を揃え、部屋に入っていってしまった。
まずい。今はピコが——。
「あれ」
ミズキが驚いた声を上げた。ちょうど顔を出したピコと鉢合わせていたのだった。
ホダカは観念するかのように膝から崩れ落ちた。