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「異動……ですか」
電灯が白く光る、観葉植物が一つ置かれただけの殺風景な部屋でホダカは体を強張らせていた。
「ああ、確かホダカ君と言ったか。君はまだこの職に就いて日が浅い。経験を積むのも大事じゃないかと思ってな」
彼が対峙している白髪の男は手を組みながら言った。男の鋭い眼差しがホダカを突き刺す。
「なんだ。何か腑に落ちないという顔をしているようだが」
「いえ、そんな。ただ、あまりにも急だったものですから」
「そんなに力まなくてもいい。人材の補強だ。業務はここと変わらん」
「はぁ……」
「という訳で、荷物をまとめて中層下層間へ降りてくれ。くれぐれも職務の目的を忘れるなよ。先人達の意思を受け継ぎ、この塔を守り通すことが何よりも重要だ。いいな」
そう語る男の瞳には、信念を曲げることなど無いような真っ直ぐとした、けれど少し狂信的な、そんな色が宿っていた。
「は、はい。わかっています。では、失礼します」
ホダカは男の棘のような目つきにたじろぎながら、部屋を後にした。