プロローグ
壁にシミが入った建物がひしめく、決して綺麗とは言えない路地に一人の老婆が座っていた。彼女の周りに輪を作るように何人かの子供達も座っている。
「ねえねえ。セン婆! あの話、もっかい聞かせてよ!」
セン婆と呼ばれたその老婆は少女の無邪気な瞳に見つめられ、やや仕方なさそうに微笑んだ。
「しょうがないねぇ。じゃあ話すとしようかのぉ」
周りの子供達は今か今かと、目をキラキラさせながら話の続きを待っている。
「栄華を極めた人々は、やがて大きな夢を見るようになった。自分たちならこの惑星なんてものから出て、もっと広い場所へと出ていけるんじゃないかと。確かに昔の人々は自分たちの住んでいる星を出て、新天地を知った」
老婆は一言ずつゆっくりと、諭すように語る。
「じゃが、愚かにも己の私利私欲のために欲張ろうとする者が現れた。そして人々は醜い争いを始めた。大地は荒れ、草木は枯れ、残ったのは生き物の死骸と争いの跡だけじゃった……」
子供達は固唾を飲んだ。もう何度も聞いてきた話だ。どこが山場なのか、頭に入っている。
「神は怒った。それはもう、どうしようもない怒りじゃった。神はまず、禍根の残る大地を綺麗さっぱり洗い流してしまった。次に争いを起こした者どもを全て呪い殺してしまった。ある者は倒れ、ある者は刺された。そしてほんの僅かな、許された人々のみが遺された」
話を聞く子供達の中には、恐れの表情を浮かべる子もいれば、どこか憧れるような表情の子もいる。老婆は語気に力を込めながら話を続けた。
「遺された人々はただの荒野と化した大地を捨て、持っていた技術を全て結集して神の怒りを鎮めるための塔を建てた。そしてそこに暮らし、二度と神を怒らせぬように慎ましく生きるようにした。その人々の子孫で、その塔に暮らしているのが我々というわけじゃ」