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風読みの冠  作者: 一枝 唯
第8話 対決 第2章

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07 よく似ているよ

「気づいていない訳じゃありませんよ」

 ローデンは苦々しい顔をした。

「私は、協会にいっさい連絡を取るななどとは言っていないし、秘すようにとも言っていない。コレンズ術師も、王家と協会の利害が異なれば王家を優先する約束をしただけ」

 ローデンはシアナラスを見た。

「ただ、()協会長がいまでも報告を受ける立場にあるとは思っていなかっただけです」

「そりゃ、フェルデラは私に敬意を払うから」

「それは腑抜けで腰抜けと言うのです。前ギディラスにへいこらする現ギディラスなど情けない」

「意地が悪いね」

 〈嫗〉は先のローデンの言葉を利用した。

「だけれど、お前からコレンズ、フェルデラを通して私に話がやってくるのでは遅い。対応が遅れることもある」

「とんでもない。素早い対応でしたよ、ヴェル様を魔女と魔物のもとへご案内」

「女は恋する者の味方さ」

「シアナ」

 ローデンは咎めるような声を出したが、シアナラスは謝罪する気はないようだった。

「グルスは魔女と引き換えに指輪をとでも言い出すだろう。それを簡単に了承するほど愚かな子じゃないと思うけれど、若い情熱というのは賢愚など飛び越えるからね」

 シアナラスはまさしくヴェルフレストの陥った状態を言い当てた。

「ただ、ヴェルフレスト坊やは自分でどうにかするよ。あれは指輪を継ぐことに躊躇いや疑念をなくしたから。一方でティルドと言ったかな。あっちの坊やはずっと戸惑ってばかりだ。お前がもう少し、見ててやらなきゃならなかった」

「それを怠ったからアロダの裏を読みきれず、危難に放り出したままなのですが」

「おや、ティルド坊やのことは助けてやろうと思わないのかい。一兵士だからってないがしろにして、殿下ばかりえこひいき(・・・・・)するなんて酷いもんだ」

「してませんよ」

 ローデンは顔をしかめた。

「ティルドの星は強いんです。私の手出しなんて必要としない」

「へえ。そのティルドとヴェル殿下の星が似ていると言ったのは誰だい」

「私ですよ。全く、いちいち意地の悪い言い方を」

 ローデンはぼやいた。

「コレンズもヒサラもこうなっては協会の指示に従うと思われますが」

「ヒサラはともかく、コレンズにはお前の〈制約〉が効いている。お前の言葉を優先するよ。面白いことに」

 シアナラスは笑った。

「アロダだってね」

「何が面白いんです」

「そりゃそうさ。あれはまるで、宮廷魔術師の道を選ばなかったお前だ」

「前にも言いましたね。どういう意味です」

「そのままさ。けっこうな魔力と技を持つのに、真っ当な魔術師(リート)をやってるだけじゃ飽き足らない。獄界神やら魔物やらに興味を持ち、自分より高位の術師を出し抜いて、楽しんでる」

「私は別に、そんなものに興味を持った覚えは」

 反論しかけてローデンははたとなった。

「獄界神に……魔物(・・)?」

そう(アレイス)

 シアナラスはうなずいた。

「アロダはドレンタル・リグリスよりもむしろ、トバイ・グルスのお友だち(・・・・)さ。あれがエディスンに現れたのと同時期にここの協会にきている。それにヒサラは、コズディム神殿でアロダを見かけている」

「ヒサラ? 彼はよもや、コズディム神官のふりなどしているのではないでしょうな」

「何か問題かい?」

「大問題ですよ」

「よく言うね。ずっとヒサラがお前の手元にいれば、お前はそうさせただろう」

 何しろ神官上がりの変わり種だ、とシアナラスは言った。

「確かに、ヒサラがいればそうさせたいと思ったことはあります。ですが私がさせるのと、協会がさせるのでは違います」

「違わないさ。彼が掴んでくる事実は変わらないのだから」

「――ほかには何を」

「グルスは近頃、神殿長(ラクラシル)ごっこに飽きてきたみたいだね。もともと実務は神官長(ランジア)に任せがちだったようだけれど、最近は王妃殿下の告解を聞く(・・・・・)くらいしかやっていなかったようだ」

「神官たちの間に不満でも?」

 〈媼〉のほのめかしにローデンは少し苦い顔をしながら、そこには触れずに続けた。

「出ているようだ。これはもしかしたら、グルスがもう神殿長業を続けるつもりがないことを示しているのかもしれない」

「とても安心できませんね」

 宮廷魔術師は表情を引き締めた。

「それよりも興味を引くことができたという考え方もできる」

「まさしくそれだろうよ。指輪に魔女、それに王子」

「アロダは何をする気でいるか。判りますか」

「自分の胸に聞いてご覧」

 シアナラスは笑った。

「お前がどれだけ否定しても、お前とアロダはよく似ているよ。カトライ王子に出会うことがないままだったら、お前はどんな道を選び、何を考えたか、想像してご覧」

「そんなこと判るものですか」

「おや、後ろ向きだね。それじゃ私が教えてやろう」

 老婆は面白そうに言った。

「アロダは、きっとお前に『報告』にくる。全て知られていることは承知で、何も悪びれないでね。お前が直接的な手段――捕縛だの、もっと直接的に攻撃術を使うだの、そういうことしないと踏んでる。ただ、お前の投げる言葉の網をかわそうとするだろう。楽しんでね」

「やりかねませんな。ですが、素直にかわさせはしませんよ」

「そりゃそうだ。そんな寛大(・・)なのは神官たちだけで充分だからね」

 シアナラスの皮肉はローデンの頬を歪めさせる。

「私を行かせまいとする理由はそれですか。コズディム神殿長よりもその魔術師とオブローンの神官を警戒せよと」

「私はただ、お前が見ていないもの、或いは見えないふりをしているものについて話をしているだけ」

 〈媼〉は嘆息した。

「お前は自分のなかに答えを見つけていながら、それを認めきれないんだね。星読みの力を持つ術師はたいてい、外れもの(ラゲンド)隠者(スアル)になるもんだけど、お前はどちらにもなれない立場に自分を置いた。迷いは自分で片づけなけりゃならないよ」

「判っています」

 ローデンは微かに嘆息した。

「ティルドの星は強い。ヴェル様のものも、然り。手出しはできない。本来を言うのならばカトライ様のものにも私は関わるべきではない」

「何言ってんだい」

 シアナラスは呆れたように言った。

「自分の星巡りは読めない訳だね。それがお前の星なんじゃないか、エイファム・ローデン」

 その言葉にローデンは黙り、そっと謝意の仕草をした。

「確かに自らの行く末、採るべき道を読むことはなりませんが」

 ローデンは息を吐いた。深く。

「進むべきときは――判っています。いまは、そうではない」

「気落ちなんかすればグルスが喜ぶよ」

 慰めるかのような〈媼〉の言葉にローデンは片眉を上げた。

「気落ちですって。とんでもない。いまのは呼吸を調えただけです」

 無力を痛感してため息をついた訳ではない、と魔術師は鼻を鳴らした。

「私は、そのときだと思えば動く。シアナラス、あなたが何を言おうと」

「言わないよ、次はね」

 〈媼〉は静かに言った。

「その『とき』は近いのかい」

「ええ」

 星読みの術師はうなずいた。

「近い。とても」


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