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風読みの冠  作者: 一枝 唯
第6話 転進 第2章

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03 文句なんか、ねえよ

 ヴェルフレストは呆然とした。

「何だと?」

 その言葉の意味は判ったが、同時に、判らなかった。

「アドレアが持っている? ずっと左手にはめているだと?」

「そうですよ。殿下にゃ見えないようにしてるんでしょう」

「では」

 不意にカリ=スが口を挟んだ。

「お前は見たのか、術師」

「まさか」

 アロダは唇を歪めた。

「私ゃ、魔女と会って指先をじっと見つめる趣味なんかありませんね。推測だと言ってる通りです」

「『持っている』という推測ならば判らなくもない。だが、『左手にはめている』という推測は奇妙に思える」

「おや」

 カリ=スの指摘にアロダは片眉を上げた。

「女が指輪を持っていて、いちばんなくさずに済む方法は、ずっと指にはめてることです。そう思いませんか。大きさが合わなきゃうまくないですから、もしかしたら鎖に通して首にかけているようなこともあるかもしれません。少し言い過ぎたことは認めましょう。で、その上でカリ=ス殿はまた何かお疑いで」

「疑うと言うのではないが」

 砂漠の男は魔術師を見た。

「ずいぶんと詳しいようだと思ったのだ」

「この件に携わってからこっち、いろいろと調べて、考察を重ねたんです」

 こう見えても勉強家なんですよ、などとアロダは付け加えた。

「よくそんな時間があったな」

 ティルドが感心したように――あまりしたくなかったが――言うと、アロダは胸を張るようにした。

「人間、苦労を厭うたらあとは坂道を転がり落ちるだけですからね。私は転がりやすそうな体型をしてるかもしれませんが、転がったら痛いですから嫌です」

 太めの魔術師は堂々と、よく判らないことを言った。

「まあ、本当のことを正直に申し上げると、調べたのはエディスンでローデン殿のお手伝いをしている先輩魔術師です。私はそれを聞きかじっているだけでして」

「成程」

 ティルドとヴェルフレストの声が重なった。その同時性にティルドを除く全員が――ヴェルフレストも含めて――面白そうな顔をした。

「〈風神祭〉に間に合わせるならば、耳飾りを持ってエディスンに戻るべきだな」

「イルセンデル? さっきも言ったわね。それ、何?」

 リエスが首を傾げるので、十年に一度の大祭であることを王子が説明した。少女の目は輝く。

「わあ、すてき!」

「おい」

 ティルドは思わず声を出す。

「それ見るために、そっち行こうってんじゃないだろうな」

「何よ、文句あるの」

 にらまれてティルドは黙った。

 文句があるとは、言えない。ヴェルなんかと行くな、とも言えない。確かに魔女を追う旅は安全とは言えないし、カリ=スがいるならばヴェルフレストとともにいた方が心配がない。

 だが少年はそうした方がいいとは言えずにいた。その理由が明確には判らないまま。

 ただ、何だか気に入らなかったのだ。

 たとえば、ティルドがリエスと並ぶと、身長はほとんど変わらない。一方でヴェルフレストの横に並べば、絵に描いたように均整の取れた身長差となる。

 そんなどうでもいいようなことが、どうにも、気に入らない。

「文句なんか、ねえよ」

 渋々と少年はそう言った。

「それじゃ決まりですか」

 少年の複雑な胸の内など気にもかけず、アロダは言った。

「殿下は、リエス殿と〈風聞きの耳飾り〉とともにエディスンへ。もちろん、カリ=ス殿もご一緒に。それで、ティルド殿はユファス殿を待って、それから」

「コルストだ」

 仕方なく、ティルドは言った。魔女の尻尾を掴みたいことと、リエスをヴェルフレストの隣においておきたくない気がする――理由はさておき――ことは両立しない。

 彼が採るのはこちらだ。魔女を追う。そのためにここまできたのだ。

「そうでしたね。コルスト。ああ、残念です」

 魔術師が嘆息するので、彼らは顔を見合わせた。何事か、というのである。

「またおふたりが生き分かれとは。私はまだまだ、忙しい」

 身が細ります、とアロダは言った。


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