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風読みの冠  作者: 一枝 唯
第6話 転進 第1章

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04 少しでもおかしいと思えば

「魔女は謎ではなく、魔術をかけるものです。言葉遊びではありませんよ。魔女が謎掛けめいたことを言うときは、それは答えた相手を魔術で縛るため。ですが、彼女の用意した答えに誘導せず、判ったら教えろとはいささか珍しい」

「裏があるようには見えなかった」

「魔女の演技などに騙されないでください、などとは、あなたは言われなくても承知ですね」

 ローデンは嘆息すると、アドレアの謎かけについて触れるのをやめた。いまは魔女がどういうつもりなのかを考える時間もない。

「先日も申し上げましたが、グルスの過去は不明です。どこからやってきて、エディスンのコズディム神殿長の地位に就いたものかさっぱり判らない。神殿は、神官の過去には寛大ですが、それにしても神殿長になる人物にはそれなりの調査が入りますし、実績も必要だ」

「だがグルスにはそれがない、と」

「ええ。ですから、魔術師であることを疑っていたのです」

「だが魔術師には魔術師が判るというのが、お前たちの言い様ではないか」

「そうですね。面と向かえば判る。そもそも魔術師であれば協会は掴んでいるはず。〈媼〉と呼ばれる女魔術師は、そのような話はしませんでした」

「魔術師の言葉は信用できないのではなかったのか」

 混ぜ返すつもりではなく、カトライは問うた。

「魔術師同士が言葉の網を投げ合うことはまずありません。相手が気に入らなかったり、敵対でもしていれば別ですが、〈媼〉はこの街を好いていて、グルスが平和を乱すのを黙って見ているよりは、かつての『裏切り導師』に協力をすることにしたのですよ」

「お前は協会とは散々やり合ったのだったな。だがそこに遺恨を残さぬ。魔術師の感性は、不思議だ」

「言葉も強い力を持ちますが、感情というのは厄介です。強い感情は魔力を増大させることもありますが、それは不安定にさせると言うことでもある。ある程度以上の知性があれば、そのようなことは避けます」

 魔術師は淡々と言うと、わずかに首を振った。

「人間でない存在。……魔族、か」

 カトライの声は静かで、「信じがたい」という色はなかった。

「われわれと異なる理を持ち、異なる生を持つ存在です。価値観も、心も、魂も。そのようなものを持つものかすら判りませんが」

「それでも、生きている」

「ええ。繰り返しますが、実在します。子供を脅す物語でもない」

「グルス。あやつがそのような存在であるのなら」

 カトライの声はやはり静かだったが、その目は強い光を宿した。

「私はやはり、サラターラに会う」

「では」

 宮廷魔術師はじっと王を見た。

「私も同席させていただきます」

「ならぬ」

「いえ」

 ローデンは王の命令に首を振った。

「参ります」

 カトライはその言葉を聞き、友人の暗い色の瞳をじっと見て、だが首を振った。

「ならぬ」

「陛下」

「認められぬ、ローデン。お前が臣下として、友として、どちらからも案じているのは判る。だが許可はできぬ。これは、私とサラターラの」

「おふたりの問題では済みませぬ」

「判っている。これは私の幻想、自分勝手、わがままに過ぎぬ。だがエイファム」

「そのように名で呼んでも無駄です。ここで友人としての情に押される訳にはいきません。いいですか、カトライ。私はあなたとエディスンを守るためにここにいる。これまでは幸いにして、魔術師としての私が前面に出る必要はなかった。ですがいまは違います」

「判っている」

「判っていません」

 彼らはほとんど睨み合うようにした。

「――よいでしょう」

 十(トーア)近い沈黙ののち、嘆息したのはローデンだった。

「あなたがわがままだと自覚しながらそれを押すと言ったとき、私がそれを翻せたことなどございませんからね。ただ、あなたの動向には隣にいるのと同様に注意を払います。心を読むような真似はいたしませんが、それに近いことはいたしますし、魔術の気配も確認します。少しでもおかしいと思えば王妃殿下の前であろうと瞬時に参上し、必要であれば術を振るいます」

「私が妃の言葉に動じたくらいで飛んできてもらっては困るが」

「誤解しないように努力いたしましょう」

 魔術師はそう言うと、唇を歪めた。

「ローデン」

 王は微かに笑うようにした。

「有難う」

 その言葉にローデンは首を振った。

 首飾りの件も気にかかるが、後回し――少なくともカトライと相談するのはもう少し掴めてからにした方がよさそうだと魔術師は判断した。また「隠しごとをするな」となじられようが、いまのカトライに新しい情報を吟味できる余裕などないのは明らかだ。

 そうしたことよりもこのときの魔術師が思ったのは、自身が同席しないとしたこの決断が災いを招くことにならねばよい、というようなことだけだった。


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