12 真偽を確かめるべき
「真偽は判らぬ。どういう縁によるのか、この差出人はヴェル様に直接お会いしたようだ。その辺りの事情は判らぬが、それにしても」
宮廷魔術師は唸った。
「砂漠の魔物が身につけていた首飾り。ヴェル様が聞いたと言われた話と同じ。そして、消えたという、それ」
伝言は言っていた。
その魔物の死に行き合わせたひとりの魔術師が首飾りを手にしたが、それにかけられている呪いを街に持ち込む訳にはいかないと、保護をしている。おかしな意図は決してないから、信じてほしい。呪いを解くことができれば、必ずそのことをエディスンに伝える。
概要は、そういったところだった。
その「魔物」がヴェルフレストの話と同一であれば、「歌」が聞かれなくなったという謎も解決するようだ。
「信じられるのですか」
「判らぬ。われわれがこの書から判るのは、これを送ってきた男は少なくともそれを信じているということだけ」
「確かにそれだけですな」
導師は封書をローデンに返しながら言った。
「しかし本当であれば、一刻も早くその首飾りを保護しなくてはならぬでしょう」
コレンズは少し鼻息荒く言った。
「だが呪いというのも気にかかる。真実であれば、エディスンに持ち込むのは厄介だ」
かけられている呪いは、持ち主を殺してでもそれを我がものにしたくなるほど所有欲を邪に刺激する、危険なものだという。書かれていたその説明は、ヴェルフレストがタジャスの地で聞いたという伝説とも一致した。偶然とは思えぬが、「企みはない」という言葉を簡単に信じる訳にもいかない。
また伝言は、その呪いが魔術と異なることを説明し、高位の魔術師でも解くことはできないのだとしていた。それは伝言の主の言葉ではなく、首飾りを手にした魔術師の言葉であるようだったから、一概に出鱈目とも思えぬ。もちろん「企み」があれば別だが。
「いまは神殿を信頼することもできぬ」
呪いを解くのは通常、神官の領分だ。だがいまのエディスンでうかうかと神殿に風具を任せる訳にはいかない。
「その魔術師というのは何者なのでしょうな。いや、それはどうでもいい。とにかく、真偽を確かめるべきです。アロダに行かせますか、それともわたくしが」
「あなたに行かれては困る」
ローデンは苦笑のようなものを浮かべた。
「そうなれば、街が守れない」
何事もない状態であればともかく、宮廷魔術師はいま、王を守るので精一杯だった。業火の神官たちがまたもエディスンに、市民に火を放とうなどと考え出した場合、いまの彼では後手に回る。コレンズは、いろいろと調べものをしてローデンを手伝っていたが、防衛の方面でも彼を手伝っていた。
「協会がもっと積極的にお手伝いできればよいのですが」
コレンズが少し申し訳なさそうに言うと、ローデンは不要だというように手を振った。
「〈媼〉級の術師でも動いてくれねば、半端者がどれだけ集まったところで同じ」
宮廷魔術師の言葉は手厳しいようであったが、現実をよく見据えてもいた。
魔術師を人数かき集めることは可能かもしれないが、そんなことをしても意味はない。
「協会長は余所の協会に依頼をかけていますが、そう簡単にはいかぬと見えます」
「であろうな」
ローデンは、判るというようにうなずいた。
エディスンの協会がエディスン王家に関わることをよしとしないように、どこの協会も自都市の支配者に慎重だ。ましてや、他都市など。
「ない助力を嘆いてもはじまらぬ」
そう言うとローデンは封書をぱしっと手に打ち付けた。
「この話を探ってはもらえぬか、導師」
「もちろん。やらねばなりますまい」
「見つかったというのが真実であれば僥倖だが、何者かの野心でもあれば厄介だ」
ローデンは考えるようにした。
「伝言を送ってきた男はそれを手に入れた魔術師のことを巧みに隠したが、その術師を探り、当たってもらいたい。金が必要ならば出す。魔術師であれば、金よりも知識を欲しがるかもしれんな。知りたい魔術や呪文でもあるのならば協力すると言って、とにかく問題の首飾りを確認するのだ。呪いについてはそれから考えればよい」
「そういたしましょう」
「導師に行っていただく訳にはゆかぬが、アロダ術師も忙しい限りだ。誰かほかに適切な術師はおらぬか」
「正直なところ、難しいですが」
コレンズは考え込むように口に手を当てた。
「何とかいたします」
「頼む」
〈風謡いの首飾り〉が見つかった。
事実であれば、それをリグリスが掴む前に、ローデンが――カトライが手にしなくてはならぬ。
失われていたものが見つかる。彼の星読みで言えば、それは契機ではなく、結果だ。この場合に当てはめれば、ほかの風具が動き出したことが、砂漠で眠っていた風具を呼び起こすことになったと言うこと。
それが真に、風具であれば。
ローデンは、不意に動き出した星を感じていた。




