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風読みの冠  作者: 一枝 唯
序章

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01 十年に一度の儀式


 それは、十年に一度の儀式だった。

 エディスンの街とその周辺を支配する王家が〈風司〉の称号を持っているのは、初代の王が風神イル・スーンを信仰していたことによったと言われるが、それはもはや過去の話で、いまでは王家の人間が何らかの魔力や神力を持っていると言うことはない。

 だがそれでも、儀式だけは残っていた。

 この街で行われる〈風神祭〉イルセンデルは、遥か昔には船出を祝い、帆が大いに風をはらむように、そして船乗りたちが無事に航海を終えて戻ってくるようにとの祈りの儀式であった。しかしいまではそれは十年に一度だけ行われ、王が風の神に祈りを捧げることだけはかつてと変わらなかったけれど、王家としてもすっかりただの形式となり、庶民たちにとっては文字通りの「お祭り」と化していた。

「そろそろだよなあ?」

 声をかけられた少年は、剣の手入れをしていた手を止めて顔を上げた。年の頃は十代の半ばから後半であろう、暗い色の髪はほとんど黒に近かったけれど、こうして太陽(リィキア)のもとにいると不思議と抜けるように輝くことがあった。

「何がだよ?」

 返した声は子供じみたところこそなかったが、成人したとは言ってもまだ「少年」と言うに相応しい不安定さを残している。

「だから、あれだよ、あれ。もしかしたらお前も、小隊に組み込まれるかもしれないぞ、ティルド」

「ああ」

 ティルドと呼ばれた少年は得心したようにうなずくとにやりとした。

「例の小道具(・・・)をお迎えに行く役ね」

 このティルド・ムールがエディスンの軍団兵(セレキア)となって二年が過ぎていたが、彼はまだまだ下っ端の新米兵士である。街道の警備に出ることはあっても、任務で余所の街に行ったことはなかった。

「遠くに行くのは面白そうではあるけど」

 ティルドは考えるようにした。

「あんまり長いこと、ここを留守にしたいとは思わないなあ」

「お? 何だ、恋人でもできたのか?」

「そのようなもんかな」

 少年はそうとだけ答えると、追及しようとする同僚を手を振って追い払った。

「命令が下ったら仕方ない、受けるさ。それだけのことだろ。さ、俺は忙しいんだ、雑談はこのへんにしとこうぜ」


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