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第137話 敵陣突破

「あれ? そう言えば僕らこれからどこを通るんだっけ?」


 ジョンソンさんに馬車を引いてもらいながら、ふと僕はグリムさんに聞いた。

 するとグリムさんは正面の森を指差して、


「見えとるじゃろ、あれが白の森の南端じゃぞ」

「……さっき蹴散らした敵はどこ行ったんだっけ?」

「あの森の中じゃが?」

「僕らが行って大丈夫なの?」

「何を言っておる、わらわ達が白の森に入るのを邪魔されるわけが無かろうが」

「バレてないかな、僕とマカ」

「……確かにそうか。一応顔は隠しておくのじゃ」


 危ないなぁ……ということで、僕は馬車の奥へ引っ込んだ。するとチアさんが入れ替わりで前に出てくる。


「私が出よう。旗は掛けておいたぞ」

「旗……ってああこれか、どうも」

「ふん、礼などいらん」


 僕らの村を襲いにきた時に掲げてた旗が、後ろに掲げられていた。

 なんか裏切ったみたいな気分になるけど、もともとこういう予定だし仕方ない。


「ふふ……」


 そこでカサっと音がして、見ると、先生が新聞を読んでいた。


「先生、それどうしたんです?」

「さっき貰って来たんだ。ま、内容は先に知ってたけどね」

「?」


 よく分からなかったが、差し出された新聞を受け取って、目を通す。写真のない、文字だけのものだったけど、見出しを読んだ瞬間に僕は驚いた。


 ――白の森、大失態!捕虜を逃し大混乱!?次期王権継承者選びに波乱は必至か!?


「え」


 慌てて本文に目を通す。

 それまでの世間からの白の森の評価や憶測、噂話で彩られた完全なゴシップだったけど、内容は見出しそのままだった。


「ど、どうしたんですかコレ」

「ん?商会を通して依頼したのさ、今朝これを僕らの通る国に号外としてバラ撒いてくれってね」

「へぇ……」


 全然気づかなかった。


「ついでにさっきの橋のあたりにも撒いてもらってたよ。ふふふ……さぞかしみんなテンションが低かっただろうね?」


 そりゃそうだ、前線で必死に戦ってる所へ本国の失態なんて流されたら、影響は少なからずあるだろう。


「……ってなわけで、一旦通信は切るよ。長話は危険だからね。じゃあ上手いことよろしく」

「了解。またね」


 そう言って、先生の胸元の通信石が光を消した。石からホウヨウさんの声がして初めて、先生が通話中だったことに気づく。


「もう通信出来てたんですね」

「流石に今朝までは周りに兵士がいたからね。このタイミングしか通話出来なかったんだ。緊急事態の時以外で向こうからは連絡しないように言ってあるから、愛しの木崎ちゃんの声を聞かせてあげられなくてゴメンよ」

「いや別に……」

「なんだいつまんない反応だなあ」

「マカみたいなこと言わないでください」


 って感じに先生のジョークをスルーして、僕らは森の中の街道を進む。

 森の外と比べて道は細くなったけど、まだまだかなり幅は広い。左右の木々の根本は黒の森と同じように芝が刈られているから、この場所が管理された森なのは見ればわかる。

 すると案の定、『それ』が見えてきた。


 ――森の中の、関所。


 どこか黒の森と似た大きな木の門が、街道を塞ぐ形で存在していた。


「わかってると思うけど、キミは出たらダメだよ。最悪、口先で誤魔化すだけだけど」

「変装とかします?ここの荷物調べられるかもですし」

「あー……一応やっとこうか。ベタだけど『包帯男』で行こう」


 そう言うと先生は袖のところから薄汚れた包帯を取り出して、くるくると僕の顔に巻いていく。


「え、お兄ちゃんなにしてんの?」

「へんほー」

「コラ動くなって」

「ふいまふぇん」


 包帯が口にかかって変な声になった。

 もといた世界の特殊メイクで作った包帯は、僕らが見ても自然と滲んだようにしか見えない血の跡がついている。


「膿を模したジェルも塗っておこう」

「うわ……」


 妹が引いているが、これで顔面大怪我人間は完成した。手鏡で確認すると、流石先生のメイクだけあって、分かってても驚く。


「変装セット持ってきてて良かったよ。さて、じゃあそろそろかな」


 馬車が止まって、声が聞こえてきた。


「どこの隊だ!撤退してなかったのか!?」

「そっちじゃない、門番のくせにこの旗を知らないのか?私だ」


 先頭にいるチアさんがそう言って、門番のエルフに鎧から顔を見せた。


「あっ、ひっ……!チ、チア様!?な、何故こんな僻地に……」

「以前通っただろう。今、私がお父様のところへ戻ることになんの不思議がある?とにかく通してもらうぞ、門を開けろ」

「お、おま、お待ち下さい!王族とはいえ検分も無しにお通しするわけには……」

「貢物も積んでるんだ、何かあって責任は取れるのか?」

「え、えっとその……」


 チアさんも押しが強いが、真面目そうな門番エルフもなかなか引き下がらない。


「困りますねぇ〜チア様……」

「ボーアか」

「お久しぶりです、まさかこのような形で再会が叶うとは夢にも思いませんでしたよ……へへっ」


 そこへ媚びるような、しかし意地の悪そうな目つきの猫背のエルフがやってきた。


「門を開けてもらうぞ」

「それは勿論……しかし私も今日の門番を任された身、素通しというわけにはねぇ〜」


 その言葉に、周りのエルフも少し笑みを浮かべる。


「何が言いたい」

「いえちょっと『身体検査』をするだけですよ、門番としてそれくらいはね……その鎧の下も一応は確認させて頂きませんことには」


 と、ネチャついた声で言う。

 なんともテンプレなゲスだった。

 そんな様子を馬車の奥で見ながら僕は、


「女の敵は殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す」

「まあ待つのじゃカナデ、頭を地面に埋めてから○○を××して※※するという手もある」


 妹とグリムさんが飛び出すのを防いでいた。


「落ち着くんだよキミ達、気持ちはわかるが確認が済んでからだ」

「なんの確認じゃ」

「まぁ見てなって」


 先生が促すと、仕方がないな、と言いたげにチアさんが鎧の留め具に指をかけ、一つ一つ脱ぎ始めた。

 そして僕はマカに、


(見えるか?)


 と念を送った。


(えーっと、見た感じ2名ですね)

(了解)


 全て察しているマカに確認して、先生に指で伝える。

 チアさんの方はというと鎧の上半身部分をゆっくりと脱ごうとしている最中で、最後の留め具を外したところだった。


「ふぅ……」


 ため息とともに重そうな鎧のパーツが外れ、それを馬車に置こうとした次の瞬間、


「はいストップ。そこまでだ……よっ!」


 先生がいきなり外へ飛び出して、門の上に向かって何かを投げた。

 バガン!と派手な爆発音と煙が発生して、門の上で干された布団みたいに誰かがだらりと垂れ下がる。


「ちぃっ!」


 そして馬車の背後の茂みから誰かが飛び出して何かを投げるけど、先生の巫女服の長い袖がそれを絡め取った。毒矢だった。


「ひれ伏せ」

「なっ、ひぃっ……は、はい!」


 そして僕がそいつを生け捕りにして、


「くっ……か、かくなる上は!者共であえであえ!」


 という声が響いた。

 視線を向けるとさっきのゲスエルフが禍々しいデザインのナイフを持って、チアさんに襲いかかる。が、


「ふん」

「ぎゃふっ!」


 外しかけていた鎧のパーツで顔面をぶっ叩かれていた。

 そしてふらふらと後退してこっちを指差し、


「も、もにょども何をしていりゅ、こいつを捕りゃえ……」

「お主、誰を指さしておる?」


 馬車から出てきたグリムさんに、言葉を遮られる。


「き、きしゃまはグリム……なぜここに!」

「決まっておろうが、わらわが直々に白の森へ向かうだけのこと!それより貴様、王族に毒の刃を向けるとは覚悟はできておろうな!」


 びしっ、と指を突きつけ、グリムさんがポーズをとる。そして上半身肌着のチアさんは何故か腕を組んで満足げにうなずいていた。


「な、なんのことでございましょう、私は決して暗殺など……」


 暗殺って言っちゃったよコイツ。


「ええい黙れ黙れ!貴様ら、あの旗が目に入らぬか!畏れ多くも王から賜った騎士団の旗、我々とその旗の御前で先程から頭が高い!控えおろう!」

「ひ、ひぃ……」


 今度はチアさんが叫んで、門にいた残り全てのエルフがひれ伏した。


「お兄ちゃん、私こういうの見たことあるかも……」

「わかる」


 ともあれこうして、僕らは無事に門をくぐったのだった。

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