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第124話 前哨戦、トラングル王国

 一晩かけて街道を走る馬車(?)が今、小雨の中を駆けている。


「ジョンソンさん、大丈夫ですか?」

「ええ大丈夫ですよ、道がぬかるまないうちに進みましょう」


 そう言って足音は続き、ぬかるみかけの道を進む。


「この調子ならっ、かな、り、早く着きそうじゃのうぇっ」

「ああ、そりゃっ、助かるっ」

「問題っ、は、次の馬宿なの、じゃ」


 激しく揺れる馬車はまともに立ってられないくらい揺れるので、道によってはこんな感じになる。


「おにーちゃん……酔った……」

「後ろ行って遠く見ろ」


 言い捨てて、グリムさんの話の続きを聞く。


「馬宿に何かあるの?」

「キョルを取り換えてもらえるよう商会に頼んである。それと、早ければそのあたりで『鳥』を受け取れてもおかしくない」

「鳥……木崎さんの安否ってことだよね」

「そういうことじゃ」

「チアさんの報告は?」

「馬宿で書かせるつもりじゃ」

「了解」

「……ふん」


 僕が視線を向けると、チアさんはふてくされたかのように顔を逸らす。

 しかしこれでも素直に言うことには従うので、面倒が無くていい。

 もっと言えば、食事とかの世話はグリムさんがやっているので、それも素直に従ってくれて、正直かなり楽なまである。

 そんなわけだから馬車の中で意外とやることはなくて、僕はただ、酔わないように外を見ていた。森や山を抜けて、今は知っているのは平原に続く一本の道。

 街道とか呼ばれてるらしいけど、見晴らしがいいだけで、遠くにはべつのやまがあるだけだった。

 しかしだんだんと雨の勢いは増し、足元もどんどんぬかるんでくる。

 そんな中でも二匹のキョルとジョンソンさんは速度を緩めず、一心不乱に走ってくれた。本当に感謝しかない。


「見えてきましたよ!」


 そしてそれから何時間たったのか、草原の中に走る一本の道を、土砂降りの中駆け抜けていくこの馬車以外に、街道を走る物は何もなかった。

 そんな中、遠くからでも見える赤青黄の光。

 たどり着くとそこは、長い木の屋根が並ぶ、馬車のターミナルだった。

 雨樋から水があふれるのを見ながら、僕らは街道に面した長い木の屋根の下に、係員らしき馬の獣身族の案内で馬車ごと入る。


「いらっしゃいませぇ〜、グリム様御一行、馬車の点検とキョル二匹、お食事のご提供を承っておりますぅ」


 馬車から降りると、羊の獣身族さんが出迎えてくれた。


「うむ、頼む。なるべくじゃが急ぎでよろしくな」

「わぁ金貨……か、かしこまりました!」


 チップに金貨を渡して、僕らは大きな建物の中に入った。

 中は食堂になっていて、天気のせいかがらんとはしているものの、あちこちのテーブルに雨宿りらしきグループが、太陽石のランプを置いて談笑している。


「……この雨では、鳥が届くのはしばらく掛かりそうじゃな」

「仕方ないよ、天気は神様が決めることさ」


 巫女服で先生がそう言うと、説得力がすごい。そんなことを言ってる間に、


「いやあ危ないところでした」

「あっジョンソンさん」


 ニンジンをポリポリ齧りながら、ジョンソンさんが人間形態でやってきた。


「馬屋を抜け出すのに苦労しましたよ」

「すまんな、騒がれたじゃろ」

「ええ、牝馬の皆さんに……」


 そう言って席について、それと同じくらいのタイミングで、さっきの羊の獣身族さんが料理を持ってやってきた。

 シチューとパンと水だったけど、肌寒いこの空気の中でほかほかの湯気をあげるその様子だけで空腹が刺激される。


「いただきます」


 各々が食事前の礼をして、食事に口をつけ、ふと気づくと食事を持ってきた羊の獣身族さんがまだいる。

 不思議に思ってると、何故か目の下のホクロを指さした。

 ……あ、別人というか別獣なのか。


「……どうも」

「失礼しました!」


 というわけで、僕が銀貨を1枚渡すと去っていく。チップって渡し方が難しいな。


「ん、今のは入り口にいた係員じゃろ?」


 シチューを口にしながら、斜め奥の席のグリムさんが言う。


「目の下にホクロあったし、違うんじゃないの?」

「バカめ、騙されたな。ここに羊の獣身族は1名だけだ」


 一番奥のチアさんがそう言って、パンを齧っていた。


「あそうなの、まぁどうでもいいや。それで、これからのことなんだけど……予定だとあと何日?」

「3日じゃな。ただしその前に……」


 その時だった。


「鳥が来たぞ!」


 誰かが叫んで、1話の青い鳥が僕らのもとへやってくる。

 まさかと思ってると、そいつはグリムさんの手元に飛んできて、びしょ濡れの体を震わせていた。


「まさか……宗右衛門どのに預けた鳥か!?」

「見てみましょう!」


 足には小さな輪がついていて、それを抜き取ると、油紙に包まれた白い紙が出てくる。

 そこには


「無事合流・我等木上潜伏」


 と書かれていた。


「はぁ……っ!」


 がたん、と僕と先生の身体から力が抜ける。本当に、本当に良かった。視界がなんかぼやけて、眠くすらある。本当に魂が抜けたみたいだ。


「良かった……本当に……」


 先生もつぶやいて、ぱくぱくと食事を摂り始める。


「先生のチートで見てなかったんですか?」

「見てたさ、でも外れることだってあるんだよ……」


 こら空気読め妹。

 というわけで安心したところに、誰かがやってきた。


「サービスですぅーどうぞ〜」


 さっきの羊だった。ホクロは……あるな。

 洗面器にお湯が張ってあって、小さなエサ皿もついている。


「おおそうじゃな」


 雨の中来てくれた鳥をお湯で濡らした布で温めてやりながら、エサ皿を近づけるとガツガツ食べ始めた。好きなだけ食べてほしい。


「で、ただしその間に……何かあるのかい?」

「国がある。今のペースじゃと、明日の夕方頃には着くじゃろうが、白の森と膠着状態らしいのじゃ」

「ふーん……国の名前は?」

「トラングル王国。白の森とは長年仲の悪いことで有名な、獣身族の治める国じゃよ」

「エルフの言う長年ってどれくらい長いの?」

「およそ千年だ。向こうの建国以来、まともな国交は一度もない。私達も黒の森に向かうときはそこを迂回する」

「千年……」

「一応聞くけど、なんでそんなに仲が悪いんだい?」

「さあ……詳しくは聞いてないが、

 トラングル王国がそもそも白の森を攻める前線基地として作られた城と城下町の独立した国で、独立のきっかけは後継者たちへ譲り渡す国土の割譲で揉めたことによる戦争によってもともとあったサラングル王国という今はもうない王国から独立を宣言したことなのだが、独立したから無関係という言い訳のもと白の森を攻めようとしたサラングル時代の謝罪もなくその上白の森を流刑地に定め治安を悪化させた挙げ句、強盗団をあんな軍事的要所で増やしておきながらまた新しい王に代わった途端何も治安維持に貢献してないくせに今までのことは水に流せと言い出す無礼極まりない使者を切り捨てたら200年ほど戦争状態になった禍根が今でもあるとか聞いた覚えがあるな」

「一切妥協せず伝えてますね」

「エルフの恨みってヤバくない?」


 エルフこっわ。


「むしろなぜ代替わりで水に流せると思うのか理解に苦しむぞ。都合の良い部分だけ親から継げるわけがないだろう。木の世話を引き継いで食べた実の味が変わるか?」

「うーん文化の差だねぇ」


 と、その時だった。


「ねーちょっと良いー?」


 がたん、と椅子を持ち込んで、女性が僕らのテーブルにやってきた。

 突然のことで全員が反応できなかったが、


「どちら様ですか?」


 と、そいつの背後にマカが現れた。


「マカ待てまだ早い」

「いや絶対に怪しいでしょこいつ」

「でもだからってさー、あんた達は私に何も出来なくなーい?」


 その女はどうやら獣身族らしく、耳は丸いし毛はほぼ白い。そして黒いシャツとハーフパンツというラフな格好なのに、とにかく髪が長い。少なくとも僕より背が高いのに、腰まである。

 ところどころ黒いのとしっぽから、ホワイトタイガーかな……

 そして度胸があるというべきか、マカに背後を取られているのに丸椅子の上にあぐらをかいてカタカタと弄んでいた。


「……用件くらいは聞くが、そもそもお主は何者じゃ?」

「アタシはバルバラ」


 椅子から落ちるように見せかけて、しっぽを使ってまるでブレイクダンスみたいな動きでテーブルとマカから距離を取り、そいつは言った。


「クッソ怪しいエルフを連れた団体さんが、アタシの国に何の用なの?」


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