偏執狂 (掌編)
一戦が終わった。
長い戦いだった。
「大丈夫。君を苦しめた《あいつ》はもう居ない」
僕が身を寄り添わせると、彼女は上体をゆっくりと反らし離れようとする。
「こんな時でも恥ずかしがり屋で意地っ張りなんだね。…そんな君が愛しくてたまらないよ。
でも、今日。痛み 苦しみ 悔しさ。《負》と呼ばれる感情全て、此処で一緒に分かち合えたんだ。今までは僕1人が背負ってきた苦しみを二人で共有出来たんだよ。
こんなに嬉しいことはない。
今日の日を、生涯を終える瞬間まで僕は決して忘れないよ。
…見てごらん。君を囲むように薔薇が散りばめられてるでしょ。
これは僕からのプレゼント。
君は「匂いがきついし痛々しいから嫌い」と言っていたけれど…僕はこの薔薇が大好きだ。赤は情熱の色、香りも生々しくて、美しく妖艶な君にとても似合っている」
…そう言うと、彼女の大きな瞳の中に透き通って綺麗な湖が溢れ出てきた。
僕の顔を澄んだ瞳で見つめながら、小さな口を少し開き何も発することなく静かに眼を閉じる。
「……安心したんだね。良かった」
僕にはまだ、君にまとわりついていた悪者を始末する《最後の仕事》が残っている。
だから、直ぐに彼女の傍にはいけない。
もう少しだけ、待っていてほしい。
早く二人だけになろう。
今度こそ二人で、幸せになろう。