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困った顔が好き
春。
土曜日の午後。
デートの約束は断られたけど、どうしても顔が見たくて家に押し掛けた。
ある程度予想していたのか、驚く様子もなく、ただ困った顔で迎えてくれた。
「今日は相手できないって言ったのに。」
私が手を洗っている間、彼は私の背中に向かってぼやいた。
それには聞こえないふりをして彼の横を通り過ぎれば、昨日買ったばかりのゲームを楽しんでいる最中だったことが伺える光景がリビングに広がっていた。
「本当に相手出来ないし、友達と通話するからあんまりうるさくするなよ?」
彼はキッチンで、私に釘を刺しつつコーヒーを入れる。困った顔のまま。
その手には2つのマグカップがあって、一つには牛乳を半分。私好みのカフェオレ。
「ん。」
彼はマグを手渡して、私の額にキスをくれてから、いそいそとゲームに向かう。
彼の優しさに気持ちが温かくなって、今すぐ抱き着きたかったけれどぐっと我慢した。
しばらく彼は買ったばかりのゲームに夢中。
しばらく私は楽しそうな彼の横顔に夢中。
彼の楽しそうな声と温かい空間にいつしか瞼が落ちていた。